ホルケウ~暗く甘い秘密~
「いるけど、彼がどうかしたの?」
「いや……んー……」
さっきまでとは打って変わって、言葉を濁らせた玲に、りこは眉をひそめた。
一体、石田がどうしたというのだ。
「あのさ、りこさん。驚かないで聞いて」
「話の内容による」
「なにその冷静な切り返し。こっちは本当に心配なんだから」
「だから、その心配ってなによ。早く教えてちょうだい」
一瞬迷い、そして玲はズバリ言った。
「襲われないように警戒して。石田って、手が早いことで一部の人には有名だから」
紅茶のカップを片手に、りこは文字通り固まった。
今、この人はなんて?
「もう30人くらいは食ってると思う。俺の同級生も何人かヤリ逃げされてるし……本人達にその自覚は無いけど……。とにかく、いっぺん捕まったらアウト。りこさん、警戒してね」
「食ってるって、ヤリ逃げって……」
よよと泣き崩れる真似をしながら、りこは叫んだ。
「芸術作品ばりの綺麗な顔で、そんなえげつないこと言わないの!」
「いやそこ!?俺の話無視!?」
「だいたいあんたまだ中学生でしょ!どっからそんな情報入ってくんの?それに、そんなことするには早すぎる年だし……」
「あのねー、りこさん」
心配が吹き飛び、玲は思いっきり呆れた表情でりこを見つめた。
その仕方ないなぁとでも言いたげな仕草に、りこはムッとした。
「田舎育ちのガキって、娯楽がないぶん変なところで好奇心旺盛なんだよ。だから、ガキでもセックスに抵抗ないってやつは多い。土地柄、ここら辺はそういうことにもオープンな人が多いのもあるし。都会ではどうか知らないけど、ここではみんな高校卒業するまでにはたいてい処女、童貞は捨てているんだよ」
淡々と、事も無げに説明する玲は、りこの知らない玲だった。
この土地で育った、早熟な美少年の玲だった。
まさか、まさかとは思うが……。
(玲もそういうの、経験済み?当然モテるだろうから、彼女とかとしていてもおかしくはないよね……)
思わず顔をしかめてしまう。
胸に靄がかかったような不快感が、りこを襲う。
「俺が童貞か気になるんだ?」
「気にしてないわよ。自意識過剰」
「嘘つき。顔に出ていた」
そんなにわかりやすかっただろうか。
そう尋ねようとしたりこだが、それは叶わなかった。
玲の腕がニュッと伸びて、テーブルを挟んでりこの頭を撫でてきたのだ。
壊れ物を扱うように触られ、りこは身動きが取れない。
触られていることには、嫌悪感がない。
しかし、くすぐったいような恥ずかしいような感覚が止まらず、今すぐこの場を立ち上がって、どこか明後日の方向へ走り出したくもある。