ホルケウ~暗く甘い秘密~


見ちゃいけないものを見た。

図書室で一人、新聞の入れ替えを行いながら、りこは先ほどの光景を何度も反芻した。

もし自分が間宮香織の立ち位置にいたら?

幾度となく、そんな想像をしてしまう。


(私も、嫌な態度を取っていたかもしれない……)


そう思うと、りこは間宮に悪感情を抱くことができなかった。

いや、それよりも。


「これからは、上原くんに近づきすぎちゃいけない、よね……」


今さら自分が離れたところで、間宮と上原の関係が修復されるとは思わない。

それとこれとは無関係だ。

しかし、必要以上に距離を縮めるとなると話は別だ。

りこも上原も、間宮との確執を生んでしまう。


(ってなると、どれくらいの距離が適切?教室で休み時間に軽く談笑する程度?)


プライベートでは一切付き合わず、校内でも機会があれば話すくらい。

ここら辺なら、上原も妥協してくれるだろう。

良い落としどころを見つけたその時、図書室に来客第1号が現れた。


「春山、ちょっと良い?」


扉を開けて入ってきたのは、上原だった。

タイミングが良いのか悪いのか。

りこは固まってしまい、声が出なかった。


「なに、上原くん」


返事が口をついて出てから、思考が追いつき、りこはあることに気づいた。


(今彼は、私を呼び捨てにしなかった?)


些細なことではあるが、呼称とは大事なものである。

なんとなく嫌な予感を抱えながら、りこは真正面から上原を見た。

上原は悲しげな微笑を湛えていた。


「ごめん。春山。俺、自分で思ってるほど周りの空気読めてなかったんだ。春山をクラスに馴染ませるのに、ちょっと時間かかるかも」

「諦めても良いんだよ。私、そこまで積極的にみんなと仲良くなろうとしてないし」


すかさずそう切り返すりこに、上原はムッとしたように言い返す。


「それは俺が許さない。だいたい偏見で避けられてるだけなら、きっかけさえあれば仲良く出来るやつだって見つかるよ」


意外なくらいに面倒見の良い同級生に、りこは
瞠目した。

なるほど、間宮香織は上原のこういう優しさにほだされたのか。
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