ホルケウ~暗く甘い秘密~
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白川町立病院隔離病棟は、本来なら感染力の強い病気にかかった患者を入れるためにある。

しかし今は、人狼に噛まれ、半人狼もしくは完全な人狼になった者の社会復帰のためのリハビリ場所として使われていた。

そしてそこに現在収容されているただ一人の患者、山崎将太はぼんやりと窓の外を眺めていた。


(俺はいつになったら、ここを出られるんだ)


自分が化け物になった自覚を持つと、次から次へと不安が芽生え、山崎は悶々とした日々を送った。

想像したよりも歯痒く、なかなか上手く進まないリハビリ。
人狼の本能との闘い。

次に両親と会った時、うまく笑えるか。

そしてなにより、教え子のりこのことが気がかりだった。

ただでさえ閉鎖的なC組に、りこは馴染めないでいた。

山崎自身は、りこを庇ったことを微塵も後悔していない。
むしろ、教え子を守れて良かったとすら思っている。

しかし今回のことで、山崎を強く慕う一部の生徒に、りこは強い反感を買っただろう。

味方といえる味方がいないりこに、これはかなり応えるはずだ。


(今あいつ、どうしてんのかな……。って、どうせぼっちなんだろうけど)


日々を淡々と過ごしていくりこの様子が頭に浮かび、山崎はどうしようもなくむず痒い気分になった。

あの強情な小娘は涼しい顔で誹謗中傷を聞き流し、そして誰もいないところでひっそりと泣く。

今までなら、そんな時に自分がそばにいてやれた。

大人びた態度で、理屈っぽく、そして自分と話すときは楽しげな表情を見せるりこを、山崎は特別気にかけていた。


(特別扱いは良くないなんて、頭じゃわかってるんだけどな。でも、やっぱ放っておけねーし)


早く、学校に戻らなければ。

決意も新たに、大きく息を吐き出すと同時に、ドアがノックされた。

反射的に時計を見ると、針はちょうど11時を指していた。


「山崎さん、リハビリのお時間です」


相変わらず表情の薄い青山医師が、今日もなんの感情もこもっていない声でそう告げる。

なんとなく苦い気持ちになるが、山崎は青山の後に続き、トレーニングルームへと移動した。
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