ホルケウ~暗く甘い秘密~
翌日、もはや習慣となりつつある、玲のお迎えに合わせて、りこはゆっくりと身支度をした。
まだまだセーラー服一枚で平気な同級生とは違い、東京から引っ越してきてまだ日が浅いりこにとっては、最近の気候は体に堪えた。
セーラー服の中にTシャツを着込み、さらに学校指定のベージュのカーディガンを羽織る。
本格的な冬がきたら、今の格好からどう厚着をすれば良いのか考えているうちに、インターフォンが鳴った。
「もう秋仕様?ずいぶん早いね」
出迎えた玲は、まだ半袖のYシャツ一枚だ。
外気の冷たさにブルッと震え、りこは手早く玲の背中に体を押しつけた。
「東京育ちだもん。地元民よりはるかに寒がりなのよ」
「ふーん、そんなもんなのか。あ、そうだ。りこさんとこの学園祭っていつ?」
「10月の4日から6日まで」
「遊びに行くから相手してね」
楽しげな声に、なんとなく嫌な予感を覚える。
「何日に来るの?」
「毎日」
「は?」
「って言いたいところだけど、学校サボったらりこさん激怒するから、5日と6日だけ」
「当然よ!っていうか、あんたプライベート私にべったりだけど、友達とかと遊ばなくて良いの?」
言い切ってしまってから、りこは自分が地雷を踏んだ可能性に気づいた。
一瞬玲の頭上に暗雲が立ち込めた気がしたが……おそらく気のせいではない。
「自分が化け物ってわかってる分、遠慮があってあんま深い付き合い出来ないんだよね」
明朗快活に、しかしどこか自虐的なノリで玲はそう言った。
咄嗟に強くしがみついてしまったのは、言葉に出来ない何かを伝えようとしたからなのか。
顔を上げ、どうにかフォローしようとする間もなく、高校の門が見えてきた。
「あんま気にしないで、りこさん。あと、俺がひっついているのが鬱陶しかったら言って。ちゃんとイイ子にしているから」
自転車から下ろし、茶目っ気たっぷりに笑い、ウィンクする玲だが、りこはうまく笑えなかった。
ただちょっと、意地悪をしようとしただけだった。
しかしそれは、結果的にりこが無意識のうちに玲の触れてほしくない部分を探り当てていたことを示す。
そして、傷つくのをわかったうえで、突いたのだ。
(最低。好きなのに、なんであんなデリケートな部分に土足で踏み込むような真似したんだ私は……)