ホルケウ~暗く甘い秘密~
「癒すって、膝枕とか?」
藁にもすがる思いで、りこは真剣に相模の意見を仰いだ。
今のところ、例えがアレなだけで言っていることは至極まともである。
相模の男子取扱い説明書としての機能に、ある程度の信頼を寄せたりこだが、彼が出した答えはこうだった。
「それも悪くはないけど、一番良いのは彼がして欲しいと思っていることをしてあげるとかじゃない?今回春山はやらかした側なんだから、彼氏がわがまま言ってきたりとかしたら、黙って聞いてあげるなりして、機嫌取ったほうがいいかもよ?」
「なるほど。参考になったわ、ありがとう」
意外と頼りになる一面を垣間見て、りこの中での相模の株がほんの少し上がる。
早速機嫌を取りにかかろうと、スマホをポケットから出そうとし、りこは気づいた。
(って、私たち偽物の恋人同士じゃん!それを忘れて真剣に相談するとか、バカじゃないの私!)
不用意に彼を傷つけたのだし、機嫌は取る。
しかし、自分たちの本来あるべき距離感を見失ってはいけない。
きつく自分に戒めてから、りこはスマホの画面を見下ろした。
LINEの画面を開き、玲との会話の記録に新たな一言を刻む。
〝七時には学園祭の準備終わるから、その後に会わない?〟
既読がすぐにつき、十秒もしない内に返信が来た。
〝いいよ。サーティワン食べに行きたい〟
晩御飯時の微妙な時間にアイス。
顔をしかめたりこだが、相模のアドバイスを実践してみることにした。
普段なら絶対に、断った上でアイスより先にまともな食事を摂れと説教の一つでもかますところだが、今日は特別である。
「春山の彼氏って、どんなん?」
上原の声がわずかに上ずっていることに気づかぬまま、りこはスマホの画面から目を離さずに答えた。
「二つ年下。白川中学の人」
「え、俺白川中学出身なんだけど。弟も今通っててさ、名前聞いたらわかるかも」
どことなく食いつくような感じが嫌で、反射的に眉を寄せそうになるが、寸でのところで止める。
なんでもないとう風に、りこは答えた。
「呉原玲って知ってる?」
上原だけではなく、相模も驚いた表情を剥き出しにして、りこを凝視する。
「私、彼と付き合ってるの」