ホルケウ~暗く甘い秘密~
一瞬の沈黙から、言いにくそうな表情で上原は切り出した。
「あまり良い噂を聞かないな……。つか、大丈夫なの?」
「それ、どういう意味?」
冷やかな怒気を含んだりこの声が、教室に鋭く響く。
何人かが振り返る気配がしたが、それらは無視して、追求するように上原の視線を捕える。
「今のはお前の失言だよ。撤回しな」
相模がいつもよりも強い語調でそう言えば、上原はしぶしぶといった風に小さく謝った。
「ごめんなー、春山。でもこいつ、ただ心配しているだけなんだわ。だって……」
束の間の逡巡の末、相模は忌憚の無い言葉を並べた。
「お前の彼氏、元カノをレイプしたって噂だから」
相模の変に取り繕おうとしない正直さに、溜飲の下がったりこは深いため息をついた。
「噂はあくまで噂だよ。人間、噂や先入観にとらわれて物事の本質が見えない時があるじゃない。ねえ、上原くん?」
厭味ったらしくりこがそうのたまえば、上原は叱られた犬のようにしょんぼりとした。
「ごめん」
「許してあげよう。心配してくれてありがとう。でも、そんなことする人ではないから、もう誤解しないでね」
そう言って真っ直ぐ上原を見つめたら、彼の瞳に映るものがなにかわからず、りこは内心驚いていた。
虚ろなような、困惑しているような、なにがベースとなっているかわからない感情の渦。
本能的に突っ込んではいけないものだと察知し、りこは玲の話題はここで打ち切った。
しかし、予想外なことに、上原のなにか引きずるような態度は、放課後になってもそのままであった。