ホルケウ~暗く甘い秘密~
3
(ウザいウザいウザいウザい……!)
楽しげに相模、上原と話すりこを遠巻きに睨みつけ、間宮香織は歯軋りした。
つい先週まで、あの場所は自分のものだったのに。
幼馴染の男子二人から離れた香織は、それまでたいして仲が良いわけでもなかった女子グループとつるみはじめた。
星屋がリーダーである、クラス内最大のアンチりこのグループである。
(あの女がいるせいで、あたしの居場所が無くなったんだ……。少なかった女友達も、みんなあの女の味方になっちゃったし)
友達だと、自分の味方だと思っていた人たちが、次々に春山りこを褒める。
頭が良いだの、ちょっと愛想が悪いけど嫌なやつではないだの。
香織も初めは、別にりこを嫌っていたわけではなかった。
いじめとまではいかなくとも、女子に嫌われている姿を見て同情を覚えることもあった。
しかしそれも、自分の好きな男の隣を奪われるまでの話である。
(あたしの気持ちに気づいてから、雄吾はあたしに話しかけなくなった。今まで、ずっと一緒に遊んだり勉強したりしてきたのに)
香織の理性の箍が外れるまで、そう時間はかからなかった。
りこをこの学校から葬り去るのに、香織は強力な手札を持っていた。
そしてその手札を切ることに、もはやいささかの躊躇いもなかった。
「香織、購買行かない?」
ひょこっと顔を出して、満面の笑みで星屋七海が誘いかける。
購買行かない?は、二人が決めた暗号だ。
(なんか進展あったのかな……)
甘い蜜に誘われて飛ぶ蝶のように、香織は星屋について教室を出て行った。
購買前の空き教室までは無言だった二人だが、空き教室に入り、前の廊下を誰も通っていないのを確認すると、どちらともなく話し始めた。
「七海、首尾良く運んでる?」
「今のところ計画通り。学園祭実行委員長権限で、出来ることの幅が広がったわ」
「二人とも、協力してくれそう?」
「もう超協力的よー。計画聞いた時なんか、テンションあがりすぎてヤバかったわ」
それにしても、と言葉を区切り、星屋はうっすらと笑みを浮かべた。
「まさか香織の口からあんなえげつない提案が出るとは思わなかったわ」