ホルケウ~暗く甘い秘密~
男装女装に必要な衣装を揃え、学校まで戻る途中、上原はりこをお茶に誘った。
「ちょっと休憩してかない?」
腕時計で時間を確認すれば、少し道草する程度の時間はあった。
しかし、この後に控えている玲とのデートを考えたら、あまり出費は出来ない。
「なるべく安く済ませたいな」
「大丈夫、とっておきの穴場があるんだ!」
眩い笑顔の上原につられて、りこは飲食店が建ち並ぶ商店街に足を進めた。
中央通りにポツンと建つ、黄色い壁のラーメン屋の奥に、上原はりこを誘う。
老朽化著しい、しかしどことなくお洒落なその建物は、一階がケーキ屋、二階がアートギャラリーらしい。
美術品には目がないりこは、目を輝かせながら二階に駆け上った。
「わあ……!」
パリの街並みやテムズ河を描いた油絵、ブルータスの彫刻、フルーツのデッサン。
点在する絵画や彫刻は、ケーキ屋のオーナーが懇意にしている若手芸術家の作品らしい。
「1ヶ月ごとに展示する作品が違うらしいよ。ここの良いところはさ、入場料ただで紅茶が無料で飲めるころ。下で買ったケーキやマフィンを持ってきてもいいんだ」
無料というワードに目を丸くするりこだが、上原のほうはもう何度もここに来たことがあるのか、勝手知ったる様子でティーポットを取り出している。
「フレーバーティーとダージリン、どっちが良い?」
紅茶の缶をキッチンカウンターに並べる上原。
アップルティーが美味しそうだ、と感じたりこだが、さっきから色々と任せっぱなしではないだろうかと我にかえる。
「私淹れるよ、連れてきてもらったお礼に」
「そう?ありがとう。俺、ダージリンね」
特に拘りはないのか、あっさりとキッチンをりこに譲り、上原は二人ぶんのマグカップを持ってきた。
改めてよく見ると、散乱したアートギャラリーの中にありながら、このキッチンはとても小綺麗でこざっぱりしている。
一口紅茶をすすり、改めてりこは上原に感謝した。
「本当にありがとう。これからちょくちょく来ちゃうかも」
「気に入ってくれて良かった。春山、美術関係の本もよく読んでるから、連れてきた時の反応楽しみだったんだ」
そう言ってはにかむ上原を見ていたら、玲のことでムッとしたことが嘘のようだ。