ホルケウ~暗く甘い秘密~
「上の空だね」
苦笑いと共に、単刀直入に切り出されたその一言が、りこの心を抉る。
バニラアイスをつつきながら、玲は伏し目がちに言った。
「で、俺とのデートに集中出来ないどんな事件に遭遇したの?」
「なんでもないわよ、強いて言うなら……」
偽物の恋人どうしの私たちが、こんな風にデートしていることに違和感を覚えているだけ。
喉の奥から飛び出そうなその部分を辛うじて飲み込み、りこはもくもくとアイスを食べた。
上原とのさっきのやり取りが気にならないでもなかったが、今は目先の玲のことで頭が一杯……になるはずだった。
「なんとなくね、私のことを好きなんじゃないかって思う男子がいたってだけよ」
なんでもないふうに吐き出せば、自然と心が軽くなった気がした。
そもそも何も言わないつもりだったのに、玲を前にすると口が軽くなっている自分に、りこ自身が驚いている。
「ああ、納得。りこさん、きっとこれからその手のことに関して色々学習していくと思うよ。まずは鈍さがちょっと薄れたね。おめでとう」
どことなく上から目線で、玲は興味ありげに微笑む。
「で、その男子ってどうなの?カッコいい?」
「……まあ、一般的にはそうなんじゃないかしら」
今まで特に仲の良かった男友達がいたわけではないりこにとって、男子の基準は玲である。
まったく男子慣れしていないのを知られるのが嫌で、玲には秘密にしているが。
「りこさん、俺が側にいるからって俺を男の基準値にしちゃダメだよ?」
鋭いところを突きながら、玲は笑顔でこう宣った。
「俺並みの顔はそこら辺に転がってないでしょ?性格はともかく」
「なによそのやや自虐挟んだビジュアル自慢」
「だって取り柄は顔だけだから。俺」
いやにキリッとした表情でそんなことを言う玲がおかしくて、ついりこは吹き出した。
「だから、りこさんの側にいて性格を矯正しようとしているの」
甘えたような声に少なからずドキッとはするが、りこは意地でもそういう素振りは見せようとしない。
しかし、帰りに自転車で送ってもらった時、心なしかいつもより強く抱きついていたことに、りこ自身は気づいていなかった。