ホルケウ~暗く甘い秘密~
第6章~リチウム~
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10月4日、学園祭当日――――――――――――
「りこのところなにやるの?」
隣のD組に在籍するりこの女友達第1号、斎藤枝折が手早く髪を束ねながら尋ねた。
「うちはクレープの屋台。D組はメイド喫茶でしょ?」
「そ。女子の半分がメイド。なんつーかベタだよね」
そう言いながらもやる気満々な枝折は、髪を整えたあと、そそくさと教室に戻った。
りこはというと、内心そこまで学園祭が楽しみというわけではない。
教室に張り出されたシフトを見れば、3日ともほとんど調理班に駆り出されていたのだ。
学園祭実行委員の星屋の悪意が汲み取れるそのシフトに、りこは思わずため息をついた。
「うわ、ひっでー……」
あまりの人使いの荒さに、上原も同情したような声を出す。
やや背伸びしながらシフトを覗き込み、相模も苦笑いをこぼした。
「男装女装コンテストの準備以外休憩なし。呉原玲が遊びに来るんだろ?」
「明日と明後日来るわ」
「出来うる限り俺と上原で代わってやるから。だから今日は頑張んなさい」
目一杯腕を伸ばしてわしゃわしゃと頭を撫でる相模をチラッと見やり、上原がこっそりため息をついたことにりこは気づいていた。
(まあ、彼からしたら迷惑よね。でもなんでかな、昨日から上原くんとの距離感が掴めない)
やはり、好きなのだろうか。
そんな風に感じるのは自惚れているとわかっていても、そう考えてしまう自分に、りこは嫌気がさした。
その日の午前中は忙しなく過ぎていった。
発注していたクレープの材料の一部が届かないなどのトラブルもあったが、代替品を探しその場をしのぎ、どうにか穏やかな午後を迎えることが出来た。
昼過ぎからは男装女装コンテストである。
上原のスタイリスト担当のりこは、キリの良いところで上原と教室を出た。
「優勝出来ると良いね」
半ば期待を込めてりこがそう言えば、上原はなんとも表現しづらい微妙な顔になった。
「女装コンテストで優勝しても別に嬉しくないよ」
「なんで?女装のクオリティー高い男子って顔綺麗な人多いし、良いじゃない」
「うーん……」
空き教室で上原が着替え終わるのを待ち、りこはバッグから必要な道具を揃え始めた。