ホルケウ~暗く甘い秘密~
翌日、前日に玲の問題発言のせいであまり寝つけなかったりこは、予定よりも30分早く学校へ行った。
(まだ中学生のくせに、マセガキにも程があるわ!襲われないように、って意味わからないんだけど!)
昨日の数ある爆弾発言の中でも最も気になったのはそこである。
恋愛経験ゼロのりこからしたら、頭がパージしそうなほどドキドキしたのだ。
その後、回覧板を届けに来た玲とLINEのIDを交換し、夜遅くまで話した。
話題は主に、りこの転校後である。
結果いつもよりも一時間寝るのが遅くなってしまったが、なぜか早起きしてしまった。
(せっかく早起きしたんだから、そのぶんの時間は有効活用しないとね)
玲と話すのに夢中で、日課だった受験勉強の時間が削れてしまったが、それを今日のうちに取り戻せそうである。
軽快な足取りで玄関に入るが、まだほとんど人はいない。
真っ直ぐ教室に向かうのがなんとなく嫌だったため、りこは常に開放されている図書室へ向かった。
蔵書の量がなかなかあり、図書室内のパソコンが常に使えるので、りこはここの常連になる予定だった。
しかし、予定はあくまで予定。
図書室のある三階まで登って、りこは考えを改める必要性があると知った。
「んッ……あッあ……」
図書室のドアに手をかけた瞬間、情事を思わせる声がりこの耳に入った。
続いて、静かな室内に響くクチャクチャという卑猥な音。
その音は一定のリズムを刻んでいる。
「やッ……あ……」
音の間隔が短くなっていくのと同時に、喘ぎ声は鋭い叫びと化していった。
いまや、肉がぶつかり合うパンッパンッという音は廊下まで響いている。
(ここから離れなきゃ)
グルグル渦巻く思考回路が出した唯一の答えに従って、りこはダッシュで図書室を離れた。
教室に飛び込む前に、女子トイレで動揺が顔に出ていないか確かめる。
鏡を凝視するまでもなく、りこは視界の端に自分の真っ赤な顔をとらえた。
りこの性的なものに対する知識など、精々少女マンガで読んだくらいのものだ。
エロ動画のような、直接的で生々しいものにはまったく免疫がない。
顔の赤みが引くまで待とう。
顔を洗おうと水道の蛇口を捻ったりこだが、廊下に響く足音に、その手を止めた。
足音は、どんどん近づいてくる。
(この顔は見られたくない!)
慌てて真後ろの個室に飛び込み、鍵をかけると同時に、足音の主は女子トイレのドアを開けた。