ホルケウ~暗く甘い秘密~
オレンジの生地に花柄のマキシ丈のワンピース、クロシェベスト、踵の低いサンダル姿の上原は、ウィッグを被ればかなり女の子らしい容姿だった。
「じっとしてよ」
メイクを施すために上原を椅子に座らせ、りこは真面目な顔で忠告した。
所在なさげに視線をさ迷わせていた上原だが、しぶしぶ目をつむる。
化粧下地を指先に取ったりこが、彼の頬に軽く塗り込めば、線の細い体が強ばった。
「春山ァ、こちょばい(くすぐったい)って」
「もうすぐ終わるから。はい、次はファンデーションね。また塗り込むから我慢してよ?」
りこの指先が顔を滑るたびに、笑いをこらえて上原は体をビクつかせた。
ビューラーを使おうとすれば恐怖で固まり、アイラインを引こうとすれば少し待ってくれと頼み、上原の支度が整った時にはかなり時間が押していた。
「女子ってすげーな。よくあんな勇気ある行動がとれるよ」
アイメイクが相当トラウマになったのか、上原は会場に着くまで繰り返しそう言った。
そんな彼の反応はスルーして、りこは自分が仕上げた上原の姿に満足げである。
多少ゴツさは残るものの、なかなか良い線をいっている。
「ふふ、我ながら良い出来栄え!さ、頑張ってきて」
軽く背中を押せば、仕方ないというようにため息をつき、軽く笑って上原は会場に赴いた。
それを見届け、りこはメイクボックスを抱えて会場を後にした。
そろそろ休憩時間が終わる頃であった。