ホルケウ~暗く甘い秘密~
「結果はどうだったの?」
戻ってきた上原に、りこはすぐ駆け寄った。
満身創痍という体で、げっそりした上原は「準優勝」と小さく呟いた。
優勝までいかなかったのは残念だが、まあまあ健闘したほうであろう。
「お疲れ様!やったじゃん」
軽く上原の背中を叩き、りこは店番に戻ろうと踵を返した。
が、上原がりこの手を掴んだことにより、それが阻まれる。
「春山、実は……」
そこから先の続きを聞く前に、りこは焦ったように上原の手を外した。
「ごめん上原くん、そろそろシフト入れ替わるから戻らないと!また後で」
バタバタと走り去るりこを、なんとも言えない表情で見送り、上原は無言で教室を後にした。
りこの方はというと、とっさに逃げてしまったことに一抹の罪悪感を覚えている。
シフトが入れ替わるというのは嘘じゃない。
ただ、あと10分後のことである。
上原の話を聞く時間くらい、充分にあったはずだ。
(それでも、何か嫌な予感がしたのよ……)
教室に戻ると、客がまばらだったため、少し早いが交代が始まっていた。
偶然にも、嘘から出た誠を具現化していたことに安堵していると、鋭い視線が突き刺さった。
思わずその視線を辿ると、間宮香織ともろに目が合った。
ニヤァッと嫌な笑みを浮かべ、どこか嬉しそうに彼女は教室を出ていく。
気づくと鳥肌が立っていた。
間宮香織の、あの不気味な笑みはなんだったのか。
「春山、こっちヘルプ入って!」
相模の呼び掛けにハッとし、りこは急いで調理場に戻った。