ホルケウ~暗く甘い秘密~
決行の日まで、あと1日だ。
仄暗い満足感を覚えながら、間宮香織は必死で笑いをこらえた。
先ほど目が合った時の、春山りこの顔が忘れられない。
怯えたように固まった彼女を見て、香織は心地よさを感じた。
そのまま足を滑らせて、崖から落下してしまえば良いのだ。
そうすれば、上原雄吾の隣に空きが出来る。
例えその空きに自分がおさまることはもう無くても、視界にあの女が入らないなら、それで良いのだ。
星屋からLINEが来ていることに気づき、香織は少し遠回りして彼女と合流しようとした。
(春山が消えたら、もう関わることがないかもね……)
幅の狭い階段をゆっくり降りたその時、香織の視界に見慣れた姿が飛び込んできた。
「香織……」
オレンジ色のマキシワンピースにクロシェベスト、可愛らしいメイクの上原がそこにいた。
戸惑いを隠そうともしない彼の側を足早に通り抜き、香織は走った。
走りながら彼を想った。
(なによ、あのふざけた女装!雄吾はそこまで背が高くないんだから、ミニスカートのほうが良かったわ。体つきだってそんな大柄じゃないんだから、着るものももっと選べた。あの女はやっぱりわかっていない)
私なら雄吾の魅力をもっと引き出せた。
そんな風に思ってしまう自分が惨めで、香織は唇を強く噛み締めた。
涙が零れるのだけは、必死で堪える。
泣いたあとを星屋に見せるなど、出来ない。
(明日になれば、変わるはず)
すがりつくように、香織はそう思った。