ホルケウ~暗く甘い秘密~


「待って玲!そっちの眼鏡の男のiPhoneに、私の写真が……」


最後まで言う前に、玲は森下に歩み寄り、体をまさぐり始めた。

赤いケースのiPhoneを見つけるなり、玲はわざわざ森下の前に移動し、iPhoneを床に叩きつけた。

光速に近いスピードで落とされたiPhoneは、その一撃だけで全面にヒビが入ったが、とどめとばかりに、玲はさらに踏みつける。


「出ていけ」


一言、短く命令する。

玲の怒りに圧倒された二人は転ぶように教室を出ていった。

ビニールテープをほどいている間、玲は一切しゃべらなかった。

りこの方も、自分の気持ちを落ち着かせるのに必死で、助けてもらった礼を言えずにいた。


「間に合って良かった……」


心の底から安心したように呟き、テープをほどいた玲はりこに背を向けた。

半裸に近い格好のりこを気遣ってのことだと、りこはすぐに気づいた。

そして、堰を切ったように涙が止まらなくなったりこは、玲の気遣いを無視して強く抱きついた。


「ありがとう。助けてくれて、ありが」


言葉は最後まで続かなかった。

体ごと引き寄せられ、触れるだけの口づけは次第に深みを増していき、りこは酸欠になるまで玲に体を預けた。

自分で自分のやったことにショックを受けたような顔をした玲に、りこも我に返る。


(今、私達、なにをしてたの?)


熱に浮かされたように突発的にキスをした。

その事実にまざまざと向き合った時、りこは混乱した。


「ごめん、りこさん。怖い思いしたばっかなのにいきなり……」


熱が急激に冷めていく。

玲の目を覗きこみ、りこは息を呑んだ。

そこには何も映っていない。

美しくも空虚な玲の瞳には、何も映っていないのだ。



彼は今、過去の記憶に足を浸していた。


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