ホルケウ~暗く甘い秘密~
2
半人狼の身になってから、女性という生き物に関わるのが怖くて仕方なかった。
度重なる性欲と、それを制御する術を知らなかった俺は、家の中ではかなり荒れていた。
小学生で性犯罪者になるわけにはいかないってプライドだけで、どうにか自分を抑えていたけど、いつ我慢の糸が切れるかわからなかった。
自分の産んだガキが見た目も心も化け物になっていく様を見て、お袋は精神を病んでいった。
無理をしてでも俺を可愛がろうと、頑張ってはくれていた。
だってな、目が怯えてんの。
明らかに腰が引けていて、逃げたいところを実の息子だからって必死で我慢していて。
それでも側にいようとはしてくれていた。
俺が、理性を失うまでは。
三年前の冬のある日、俺はいつもより早めに帰宅した。
家の中の空気が妙に生温く、湿った感じがしていたのを覚えている。
不意にシャンプーの甘く爽やかな匂いが鼻腔をくすぐった。
下腹部に熱がこもり、ジワジワと理性が浸食されていく。
バスローブ一枚で風呂場から出てきたお袋は、俺を見るなり顔を強張らせた。
その怯えた表情に心はギシギシ軋んだ。
けど体は――――――――――
体は、人狼の本能に支配されていた。
自分を止めることが出来なかった。
実の母親に肉欲を剥き出しにする自分の浅ましさに吐き気がする。
嫌なのに、喉の奥がカラカラと渇いて、バスローブを剥ぎ取る手を止めることが出来ない。
たるみきった締まりのない体を床に横たえた瞬間、お袋はついに発狂した。
『近寄らないで!この化け物!』
汚物でも見るような目は、俺にかけられた強力な呪いをかき消した。
『あんたなんか息子じゃない!こんなことになるなら、生まなきゃ良かった……!』
立て続けに発せられたその言葉は、今までどんな方法でも鎮まらなかった俺の人狼としての本能を鎮めた。
俺は全力で突き飛ばされ、その日のうちにお袋は家を出ていった。