ホルケウ~暗く甘い秘密~
それからというもの、雪を見るたびにその日の記憶がフラッシュバックするようになった。
風呂や洗面所の鏡で自分を見るたびに、吐き気がするほど気持ち悪くなっていった。
お袋が出ていった理由について、根も葉もない噂があちこちから浮上したりもした。
そのたびに親父は、俺のいないところで泣いていた。
もうなんだかすべてがどうでも良かった。
学校も次第にサボるようになった。
噂を信じないで俺に向き合ってくれるやつは少なかったし、俺自身もう疲れていた。
小学校を卒業した時はほっとしたよ。
今までなら友達と遊ぶ為だけにあった春休みって存在は、堂々と家に引きこもれる期間になった。
お袋が出ていったっていうのに、親父は俺を恨んだりしなかった。
なぜお袋が出ていったのか、理由を俺に詰問したりするようなこともなかった。
だからかな、俺は不思議と死のうとだけは思わなかった。
泣きたくなったらまた十勝平野まで走って、それでどうにか凌いでた。
この呪われた体と、どう折り合いをつけながら付き合っていくか。
人狼に噛まれてから二年、なんのヒントもなくただどうしようとだけ思っていた日々。
誰とも遊ばなかった中学校に入る前の春休み、俺は自宅から一番近いコンビニで、白人のじいちゃんと出会った。
じいちゃんは俺の目を見るなり、こう言ったんだ。
「君も噛まれたのだね」
その時の衝撃は、今思い出してもすごいものだった。
コンビニを出るなり、俺はじいちゃんに詰め寄った。
「さっきの言葉、どういう意味?」
「人狼に噛まれたことがあるね?」
俺の質問は無視して、じいちゃんは確かめるように訊ねた。
噛まれた傷痕なら、もう消えたはずだ。
反射的に首筋を触るけど、じいちゃんは静かな声で言った。
「目の色でわかる。人狼に一度噛まれた人間は、君のような金混じりの茶色になる。二度噛まれたら、輝くような金色に」
なぜ、そんなことを知っているのか――――――
じいちゃんはポケットから名刺入れを出して、一枚俺にくれた。
そのじいちゃんの職業は、神父。
白川カトリック教会のジェロニモ・スミス神父とは、こうして出会った。