ホルケウ~暗く甘い秘密~


チキンな俺は、結局愛子に別れを告げることが出来なかった。

霜が降り始め、散った紅葉が凍った水溜まりの中に綺麗におさまる頃、愛子のほうにも一つの変化が訪れた。


「ねえ玲、あたし達っていつになったらキス以上の関係になれるの?」


その頃、愛子の女友達に処女を捨てるやつが現れはじめた。

そんな彼女達を、別に軽蔑したりとか嫌ったりとかはしないけど、俺はまだ早いんじゃないか?くらいの漠然とした考えで見ていた。

それを愛子にも言っていたから、だからなおさら愛子のその言葉に俺は驚いた。


「玲があんまり積極的じゃないのはわかっているけど……」


言いにくそうに口ごもる愛子。

もし、高校生になったあたりで、俺が人間に戻れていて、愛子を抱けたら。

一瞬の夢は、長い現実を辛くするだけだった。

教室の窓に映った自分の瞳は、明るいハニーブラウンだ。


「いつになるかは、俺もわかんない。けど今じゃないのは確かだよ」


はぐらかして逃げて、黙らせるようにキスをした。

それも長くは続けないで、俺はそのあと学校をサボった。

だからかな、その頃から愛子は俺にべったり引っ付いたりしなくなった。

また前と同じように男友達と遊びはじめた。

俺は嫉妬したけど、愛子に対する負い目や引け目から、表面上は平静を装っていた。

一度だけ、我慢しきれずに愛子が遊びに行くのを止めたことがある。

止められて、満更でもなさそうな微笑みを浮かべ、その日は終始機嫌が良かったのを覚えている。

これで俺の気持ちはわかってもらえた、って喜んでいた俺は救いようのないバカだった。


クリスマス、俺がまた普通の学校生活を送れるようになった立役者の愛子に気を利かせて、親父は半日家を開けた。

新月まであと2日あるし、これまでも我慢してこれたんだから大丈夫だと自分に言い聞かせ、俺は愛子を家に迎えた。

朝の10時から夕方まで、どう過ごすか。

間違っても変な雰囲気になってはいけない。

ゲームをしたり、漫画を読んだり。

ランチタイムには、家の中で出来ることがほぼなくなっていた。

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