ホルケウ~暗く甘い秘密~
「亜美や理菜だってもう経験してるのに、このままじゃあたし取り残されちゃう!普通の彼氏ならしてくれることを、玲はしてくれないんだね」
振り切ったように飛んできた愛子の言葉は、一体俺のどこに刺さったのか。
そこにいたのは、俺の彼女じゃなかった。
女友達との付き合いのさじ加減に悩む、1人の中学生だった。
「その言い方だと、愛子は友達と共通の話題を作るためにセックスしたいっていう風に取れるけど」
吐き捨てるような、冷たい言い方だったって自分でも思う。
彼女の目にジワジワと恐怖が広がっていくのを、俺はじっと見ていた。
このまま終わるのかもしれない。
漠然とそう予想していたら、にわかに外が暗くなりはじめた。
布切れみたいに細く小さい雪が、一片、また一片と降り始めた。
無言は長く続かなかった。
っていうのも、愛子が別の方向から爆弾を落としてきたからだ。
「そんな風に潔癖になったのは、お母さんが原因?」
お母さん。おかあさん。
頭の中でその響きを確認すると、最後に会った日がフラッシュバックする。
俺の顔が青くなったのを見て、確信したように愛子はこう言った。
「やっぱり、あの噂は本当だったんだ……」
「噂ってなに?」
頭がグラグラする。
愛子の耳に入った噂を、聞きたいけど聞きたくない。
固唾を呑んで、俺は愛子の言葉を待った。
「……玲は……昔、お母さんに性的虐待を受けていたって……」
新しい衝撃がハンマーと化して、俺の脳天を思いっきり叩きつけた。
どこからそんな話しが出ていたのか。
真実は違うのに。
真実は…………。
「ねえ玲」
言いたい。
本当は真逆なんだって。俺が、お袋に性的暴行を働こうとしたんだって。
「聞いて、ねえ」
でも言えない。言えるわけがない。
ここまで来てもまだ、俺は愛子を手放すことが出来ないんだ。
「あたしはあの人とは違うんだよ?玲に酷いことをしたりしないよ」
違う。違うんだ愛子。酷いことをしそうなのは俺のほうなんだ。
吐き出したい気持ち、本音だけがどんどん積もっていく。
「だから、あたしに触っても大丈夫なんだよ」
「なんにも大丈夫じゃねえよ」
俺の理性が。人としての尊厳が、大丈夫じゃないって訴えているんだ。