ホルケウ~暗く甘い秘密~
(この人達にとっては、朝の自主勉強時間なんてただの雑談タイムなのね……)
教室の前方で雑誌を広げながら雑談に華を咲かせる子達、髪を巻いたり、爪の手入れをしている子達、女子は基本的に勉強をする気がないようだ。
男子はというと、森下や石田などの、一部の騒がしい人間を除けば、真面目に勉強したり読書している人はちらほらいる。
りこは勉強する時にうるさいと集中出来ないタイプなので、この時間は読書に当てようと決めた。
早速、バッグの中から文庫本を取り出す。
しおりを挟んでいたページを開き、読みはじめてすぐに、りこは誰かに肩を叩かれた。
驚いて顔をあげると、いつの間に自分の席に戻っていたのか、森下が真横にいた。
「おはよう春山。何読んでるの?」
「おはよう。ジェーン・オースティンの高慢と偏見。知ってる?」
「知らない。面白い?」
「私はけっこう好き。ただ、文学に興味がないなら楽しめないと思うわ」
森下が一瞬言葉に詰まったのを見計らい、りこは会話をシャットアウトした。
目を本に戻し、続きを読みはじめる。
話しかけるなというオーラを全身から放出したのが効を奏したのか、1限目が始まるまで誰もりこに話しかけなかった。
「いつもは適当に済ませているホームルームだが、今日はちょっとした報告があるんだ」
過密ぎみの狭い教室に、担任山崎の艶やかなバリトンが響く。
トレードマークの青いフレームの眼鏡に、いつものことながらセンスの良さが光る服。
それに見合う甘いマスクに、何人かの女子がうっとりとしているのに、りこは嫌でも気がついた。
そして何故か、嫌な予感がしていた。
「今日欠席している相澤だが、昨日倒れてとうぶん入院するそうだ。持病の心臓病が原因らしい……。みんなも知っていると思うが、そろそろ高校図書連盟の会合がある。全国の高校の図書委員が参加しなければならない会合だ」
これは、フラグじゃないだろうか。