ホルケウ~暗く甘い秘密~
結局、玲との距離はまったく縮まらないまま、三日間の学園祭は幕を閉じた。
それについて、なにも思うところがないわけではないが、りこは片付けをしながら、さりげなく近くの女子たちの噂話に耳を傾ける。
「なんか、最近右京と隼人見かけないよね?」
「知らないの!?他校のヤンキーにケンカ売ってぼこぼこにされたらしいよ」
「うそ、マジで?」
(他校のヤンキーねぇ……)
いつの間にか、二人の噂は収集のつかないところまで広まっていた。
星屋はりこに興味を失ったらしく、嫌がらせはパタリとなくなった。
こうして、束の間の平穏が訪れた。
しかし、そのことに安堵して間もなく、新たな騒ぎが白川高校で起きる。
「職員室に泥棒入ったらしいよ!」
教室に飛び込んできたのは、クラスのスピーカー的存在の女子である。
普段のしょうもないゴシップとは違い、話題が話題なだけに、一気に他の女子たちは食いついた。
「それヤバくない?」
「職員室どんな感じだった?」
鬼の首を取ったように、話題を提供したスピーカー女子はまくしたてた。
「監視カメラが全部壊されてたって!金庫も壊されて、中身取られちゃってたらしいよ。とりあえずお金になりそうなものはなんも残ってないみたい」
学園祭期間中は、確かに監視の目が緩む。
それにしたって物騒な話だと、りこは知らず知らずのうちに眉をひそめていた。
「はーるやーま!」
妙な抑揚をつけながら、相模がりこの隣からひょいと顔を覗かせた。
その仕草が不思議と女の子らしい。
「学祭の打ち上げ行く?」
そういえば今日だった。
とっさに頭の中で、所持金がいくらか思い出そうとするが、面子を考えた途端に行く気が失せる。
「行かない。疲れそうだし」
「じゃあ、俺もパス。雄吾と違って友達少ないから楽しめそうにないし」
「あ、ねえねえ。最近上原くん元気ないみたいだけど、なにかあったの?」
話している途中に、学校生活を快適にしてくれた恩人を思い出し、りこは尋ねた。
どこか塞いだ様子の彼を、実は心配していたのだ。
「ああー、うん……」
苦笑いをこぼしながら、相模は一瞬押し黙った。
その様子に、そんなに深刻な悩みなのかと身構えたりこだが……。
「解決法が見つからない悩みを抱えているからね。今はそっとしといてあげて」