ホルケウ~暗く甘い秘密~


はぐらかすようにそれだけ言われてしまった。

相模がそう言うのだから、と自分を納得させ、りこはそれ以上深入りはしなかった。

掃除や片付けも終わり、ホームルームが始まる5分前。

いつもなら黒板前に待機している副担任が、今日に限っていない。

時間になっても来ないのを見ると、何人かの生徒は友達の席に遊びにいっている。


(泥棒が入ったっていうし、忙しいのかな)


漠然とそう考えてすぐ、廊下から足音が近づいてきた。

足音はあっという間に教室にたどり着き、ガラガラと耳障りな音をたてて、ドアが開く。

教室の空気はしんと静まり返った。

副担任の隣に担任が、山崎将太がいる。


「山崎先生!?」


誰かわからないが、悲鳴に近い叫び声があがった。

教室にざわめきがさざ波のように広がる。

さざ波は規模を大きくし、山崎に押し寄せた。


「先生、もう怪我は治ったんですか!?」

「今日学校来ているってことは、もう復帰出来るんだよね?」

「テニス部の顧問やめるって本当?」


詰め寄る生徒たち(主に女子)をなだめながら、山崎は一人一人に丁寧に答えた。


「ああ、怪我はすっかり治った。心配してくれてありがとう」

「喜べ。明日から復帰だ」

「残念ながら本当。来月には新しい顧問が決まる」


にわかに明るい空気になった教室で、りこは一人だけ胃が捻れるような罪悪感にさらされた。

山崎は眼鏡を外し、コンタクトをつけていた。

おそらくカラーコンタクトだ。

人狼の血が混じり視力が回復した今、眼鏡は必要ない。

しかし、目の色を隠すためにはカラーコンタクトが必須だ。

りこを守った代償は、これから先常にりこの目に映ることになる。

一瞬、山崎と視線がぶつかった。

心が弱りきっていたりこは、すぐに目をそらして、そして後悔した。

山崎はすぐに教室を出たが、修学旅行に間に合った復帰に、クラスメートのほとんどがはしゃいでいた。

< 184 / 191 >

この作品をシェア

pagetop