ホルケウ~暗く甘い秘密~
はぐらかすようにそれだけ言われてしまった。
相模がそう言うのだから、と自分を納得させ、りこはそれ以上深入りはしなかった。
掃除や片付けも終わり、ホームルームが始まる5分前。
いつもなら黒板前に待機している副担任が、今日に限っていない。
時間になっても来ないのを見ると、何人かの生徒は友達の席に遊びにいっている。
(泥棒が入ったっていうし、忙しいのかな)
漠然とそう考えてすぐ、廊下から足音が近づいてきた。
足音はあっという間に教室にたどり着き、ガラガラと耳障りな音をたてて、ドアが開く。
教室の空気はしんと静まり返った。
副担任の隣に担任が、山崎将太がいる。
「山崎先生!?」
誰かわからないが、悲鳴に近い叫び声があがった。
教室にざわめきがさざ波のように広がる。
さざ波は規模を大きくし、山崎に押し寄せた。
「先生、もう怪我は治ったんですか!?」
「今日学校来ているってことは、もう復帰出来るんだよね?」
「テニス部の顧問やめるって本当?」
詰め寄る生徒たち(主に女子)をなだめながら、山崎は一人一人に丁寧に答えた。
「ああ、怪我はすっかり治った。心配してくれてありがとう」
「喜べ。明日から復帰だ」
「残念ながら本当。来月には新しい顧問が決まる」
にわかに明るい空気になった教室で、りこは一人だけ胃が捻れるような罪悪感にさらされた。
山崎は眼鏡を外し、コンタクトをつけていた。
おそらくカラーコンタクトだ。
人狼の血が混じり視力が回復した今、眼鏡は必要ない。
しかし、目の色を隠すためにはカラーコンタクトが必須だ。
りこを守った代償は、これから先常にりこの目に映ることになる。
一瞬、山崎と視線がぶつかった。
心が弱りきっていたりこは、すぐに目をそらして、そして後悔した。
山崎はすぐに教室を出たが、修学旅行に間に合った復帰に、クラスメートのほとんどがはしゃいでいた。