ホルケウ~暗く甘い秘密~


(なんで、あんな普通に忘れられていたんだろう……)


自分の恋愛や学祭、友達付き合いなどで、りこはいつの間にか山崎がどんな状況にあるのか忘れていた。

そんな自分に驚愕し、軽蔑の念すら抱く。

放課後、りこは一人図書室で深いため息をついた。

ありがたいことに、今日に限って利用者数がほとんどいない。

閉館まであと一時間というところで、最後の利用者が貸し出し手続きを済ませ、図書室をあとにした。

無人になった図書室で、りこは机に突っ伏して小さく呻いた。

先ほど山崎を見てから罪悪感に苛まれ続け、頭まで痛くなってきた。

しかし、いつまでも避けるわけにはいかないし、第一山崎に対してとても失礼だ。


「どの面下げて会うのよ……」


小さく呟いたその時、わずかな音をたてながら図書室のドアが開いた。

まさか、と思いながら振り向けば、今一番会うのが怖い人が、そこにいた。


「山崎先生……」


カラーコンタクトを外した状態で、山崎はまっすぐりこを見据えていた。

言わなければいけないことがたくさんあるからか、何から言えば良いのかわからず、りこは口を開けたり閉じたりした。

まずは謝ろうと意を決して顔を上げれば、山崎の声がかぶる。


「お前が無事でよかった。顔の腫れも綺麗に消えてるし、安心したわ」


山崎の力強い両手が、りこの顔を包み込む。

何を言われたのか、一瞬頭が追いつかなかったが、言葉を咀嚼し飲み込んだとたん、りこの目頭が熱くなった。


「ごめんなさい」


一番伝えたい言葉が飛び出ると、言いたかったことが涙と一緒にポロポロと零れていく。


「本当にごめんなさい。私と関わったせいで先生の人生が狂っちゃった……!謝って済むことじゃないけど、それでも謝らせてください!」


山崎の両手にりこの涙が伝う。

俯くりこの頭上に、山崎の穏やかな声が降りかかる。


「まだ言うことあるだろ?」


促すような響きに、りこは山崎の求める言葉を見つけた。


「助けてくださってありがとうございました」

「どういたしまして」


その満足げな返事に、答えがちゃんと合っていたのだと確信する。

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