ホルケウ~暗く甘い秘密~
「急で悪いが、春山を図書委員代理として立てることにした。このクラスでなんの委員会にも入ってないの、お前だけだし。事後報告で申し訳ない」
ああ、やっぱり……。
山崎のファンの恨めしげな視線が、りこの背中をグサグサと刺す。
「構いません。後で仕事内容を教えてください」
苦笑いは隠せなかった。
りこの歯切れの良い返事に満足したのか、山崎はこれでホームルームを締めくくった。
「放課後、いや、昼休みに図書室に来てくれ。これから来週までお前にやってもらう仕事を教える。その仕事には通常業務も加わるから、今日の昼から早速働いてもらいたい」
やることも勉強以外特になく、親しい仲の人もいないりこには、なにか用事があるというのは、大変ありがたいことだった。
「かしこまりました」
軽く会釈すれば、山崎はりこに微笑を送り、教室を出ていった。
(あーあ……山崎ファンに恨まれる……)
心配の種がまたひとつ。
こういうことが積み重なって、いじめられたりとかしないだろうか?
りこの懸念はそこにあった。
別にいじめが怖いわけではないが、面倒ごとに巻き込まれたら勉強がはかどらなくなる。
それが、たまらなく嫌なのである。
「なんか、春山さんずるくない?」
小さい声で(と本人は思っているのだろう)ボソボソと噂する一部の女子に、りこは怒りと呆れが同時に押し寄せてきた。
(今の状況をどう見たらずるいのよ……意味わかんないわ)
深呼吸をし、1限目に使う教科書とノートを用意する。
そのあとも、何度か森下に話しかけられたが、そのたびに最低限の返事をよこし、りこは午後までひたすら勉強に集中していた。