ホルケウ~暗く甘い秘密~
人狼の少年に襲われてからしばらく経つと、里美はりことLINEを通じて話すようになっていった。
りこに友達が出来はじめてからは、教室でもたまに話す。
「で、相談ってなに?」
ズズーッとオレンジジュースを啜る里美に、りこは浮かない顔をした。
「海間さんって護身術とか身につけていたりする?」
「いや全然」
即答でバッサリと答える里美に、りこは疑うような視線を投げた。
こんないかにも強そうな雰囲気でそれは、ちょっと嘘臭い。
「や、マジでなんもしてないって。じいちゃんの銃をたまに拝借するから、ライフルは扱えるけどそれくらいだよ。よく兄貴と取っ組み合いのケンカしてるから、それで鍛えられている部分はあるかな?」
「ああ、なるほど」
「なに、体鍛えたいの?」
視線をさ迷わせながら、里美の問いにりこは弱々しく答えた。
「自分で自分の身を護れるようになりたいっていうか……。山崎先生が変身しちゃった今、まず危ないのは私だし」
「そうだね。委員会で一緒なんだっけ?」
「うん。でも、そっか……。海間さんなら、武術の一つや二つやっていると思ったのに」
偏見も甚だしいのは百も承知だが、りこはあからさまにがっかりした様子見せた。
そんなりこに呆れつつも、里美は抗議の声をあげる。
「あたしを何だと思ってるのよ」
「マンガとかラノベとかに出てくる戦闘能力値高い系女子」
「ふざけんな。こちとらしがない女子高生じゃボケ」
すっかりふて腐れた里美の機嫌を治すべく、放課後にアイスを奢ることを約束したりこは、今度こそ真剣に里美にアドバイスを求めた。
「そうだね……あ、人狼って嗅覚どうなってんの?やっぱり人間離れしている?」
「ええ。犬のそれに近いわ」
「じゃあ、必要以上に近づいたら犬の嫌いな匂いでも撒けば?」
「ネギ臭くなるのはちょっと……」
顔をしかめるりこだが、里美はそうじゃないと否定した。
「柑橘類の匂いだよ。犬や猫は柑橘類の匂いが嫌いなんだ。香水にもあるし、普段使いしやすくて人狼も避けられて一石二鳥」
わりと適当に答えた里美だが、りこは目を輝かせた。
「それだわ!ありがとう海間さん」