ホルケウ~暗く甘い秘密~
「あ、誰か来た」
ぼやくや否や、山崎はりこからパッと離れた。
次の瞬間、図書室のドアが開き、5人組の女子が雪崩れ込んできた。
「やっほー、将太」
「山崎先生と呼びなさいって言うの何回目なんだろうな。いい加減敬語使え。成績下げるぞ」
「新しい本無いんすか?」
「図書連のが終わったら発注予定。聞いて驚け。今年はなんと300冊に枠が増えた」
「あ、予算増やしてもらえたんだ。さすが山崎。やるねー」
「なんで上から目線なんだよ!あとお前もいい加減敬語使えって」
一気に山崎の周りは騒々しくなった。
複数の女子とテンポ良く言葉を交わしながら、時折来るレファレンスもそつなくこなす山崎は、まだ社会に出ていないりこにも、仕事の出来る大人だとわかる。
(担任には恵まれたな……)
転校してきて初めて、りこの学校生活に光が差した。
そのあとは、1人ずつポツポツと人が入り出し、受付の仕事も忙しくなっていった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った時には、訪問人数は30人を越えていた。
「あんなに来るものなんだ……」
想像以上の忙しさに疲れた体を引きずりながら、りこは山崎と共に教室へ向かっていた。
次は山崎の担任する地理の授業だ。
「うちの学校は、道内でも有数の図書室の利用率を誇る。活字離れが進む現代では、素晴らしいことだ」
「そうですね。ところで、先生は普段何を読んでいらっしゃるのですか?」
「基本なんでも。ラノベから洋書、純文学までなんでもあり。つまり雑食。春山は?」
「私も雑食ですよ。興味を持てればなんでもありの人間です」
教室に着いたので会話はそこで途切れたが、その日を境に、りこは急速に山崎と親しくなっていった。
しかし、それから間もなく事件は起きる――――――――――――