ホルケウ~暗く甘い秘密~
突然降って湧いた非日常に、久しぶりに強い関心を持ってニュースを見ることが出来た。
朝食を終え、食器を洗浄機の中に入れ、弁当を作り終えれば、もうやることはない。
歯を磨きながらガスを消し、エプロンを畳んで定位置にかけ、キッチンを後にする。
5分後、りこは家を出た。
そして―――――――――――――――――――
呉原家のインターホンを連打する。
『……はーい……』
覚醒しきってない玲の鼓膜を破る勢いで、りこは意識して大声をあげた。
「玲!いつまで寝てるの!?もう40分よ!さっさと開けて!」
まるで手のかかる息子を持った母親のように、りこは図々しさを全開にしてドアを叩いた。
ここ最近毎日のように、LINEの会話の締めくくりに、明日起きれそうにないから起こして、と頼む玲のために、りこは毎朝学校に行く前に呉原家に寄っていた。
一体なにをしたら、朝起きられないほどに熟睡するのかと聞いたところ、玲の答えは、
『特になんもしてないけど、最近朝に弱くなった』
である。
玲を起こしてから10分間待ち、大通りまで一緒に行くのは、もはや日課となりつつある。
待っている間、りこは昨日まとめた英語のノートを見直していた。
「お待たせ。行こう」
すっかり眠気が覚めたのか、寝起きの掠れた生気の無い声とはうってかわって、口溶けのよいスイーツのような甘い声が復活している。
玲が隣に並んだとき、りこはあることに気づいた。
「玲、こんなに背高かったっけ?」
数年ぶりの再開からたった6日ほどで、玲は少し大きくなっていた。
「最近、俺毎日伸びてるよ。数ミリずつ」
「羨ましい……私は中1でストップしたわ」
「とうとうりこさんを見下ろす日が来たのか……なんか感動」
「なによそれ。そういえば」
ついさっきまで寝ていたのだ。
ニュースなど見てはいないだろう。
神妙な面持ちで、りこは口を開いた。
「なんかね、この町の森林公園にロシアオオカミが出たらしいの。ニュースでやってたわ。複数いるみたいで、どうやってこの町に辿り着いたのかはまだわからないって。森林公園と言えば、あんたの学校からすぐじゃない。気をつけてよ」