ホルケウ~暗く甘い秘密~
言葉を切った瞬間、玲の瞳孔が大きく開いた。
ハニーブラウンの瞳に何かが走る。
それは、りこの見間違いでなければ、恐怖や焦りだった。
わななき弛緩した唇を見て、玲の瞳が映したものは彼自身の感情だという確信に、一歩近づく。
しかし、どうしたのか尋ねようとした刹那、玲は一瞬うつむき、そして顔をあげた。
「怖いね、オオカミとか。わかった、気をつけるよ。ありがとう」
さっきまでの態度が嘘のような、ごく自然な笑顔に、りこは自分はなにかを見間違えたのだと、本気で思いそうになってしまった。
しかし、あの怯えは嘘ではない。
それを指摘するべきか、しないべきか……。
一瞬の躊躇いの末、りこは黙殺を選んだ。
(玲だって人間だもの。隠したいことくらいあるだろうし……だけど、なんであんなに凍りついていたの?)
玲が深い安堵のため息を漏らしていたことに、その時のりこは気づいていなかった。