ホルケウ~暗く甘い秘密~
その日の放課後、りこは図書室で蔵書の整理をしながら、山崎との雑談に花を咲かせていた。
手際よく巻数がバラバラの文庫本を並べ直しながら、今朝のニュースについて山崎に問いかける。
「どう思います?オオカミの件」
「この町に入ったルートがすげえ気になる。それだけだな。オオカミは腹一杯エゾシカを食ったわけだから、俺達が食われる心配は無いし」
「そうですよね。私もそれ、すごく気になります」
その後の雑談の内容は次第に委員会関係や、趣味の本に移り、あっという間に放課後の業務の終了時間が迫っていた。
「春山、来週の月曜日は図書連盟の本番だ。推薦図書を選んでおいてくれ。推薦文も頼む」
「はい。字数制限はありますか?」
「原稿用紙二枚以上」
「かしこまりました。では、また来週。お先に失礼します」
先ほどから鈍い頭痛がするため、いつもより早く帰れることに、りこは感謝していた。
が、出ていこうとしたりこの手を軽く掴み、山崎が顔をしかめた。
「ちょっと待て。なんかお前、顔色悪いぞ。家まで送ろうか?」
突然のその申し出に戸惑いつつも、りこはその心遣いに思わず笑顔がこぼれた。
「ありがたいお申し出ですが、お心遣いだけ受け取っておきます。少し具合が悪いだけで、歩けないほどではないので。では、失礼します」
軽く会釈し、図書室のドアを開けたその時、りこの髪をまとめていたシュシュが、ブチッと音をたてて切れた。
バサリと広がる髪。
広がるシャンプーの香り。
柔らかな音をたて、床に落ちたシュシュ。
りこは茫然としながら、切れたシュシュを拾った。
「あーあ、これお気に入りだったのに……」
水色とロイヤルブルーのチェック柄のシュシュは、りこのスカートのポケットにおさまった。
「おい、やっぱり家まで送ろうか?マジで顔色悪いぞ」
「大丈夫ですよ。それよりも、早く帰ってご飯作らないと」
「そうか……じゃあ、また来週」
優しい山崎の視線に見送られ、りこは夕闇の中、家路を急いだ。