ホルケウ~暗く甘い秘密~
車を走らせて20分ほど経った頃には、町の中央から離れ、森との境目まで来ていた。
雪印工場を通りすぎ、 もうすぐ隣町に差し掛かろうとしている高速の外れに、その店はあった。
トラットリア、ロマーナとローマ字で書かれた看板が、小ぢんまりと立っている。
「うわ……普段着で入るの気が引ける……」
尻込みするりこに、政宗はちょっとした豆知識を披露した。
「りこ、トラットリアとは大衆食堂のような、カジュアルレストランのことだよ。リストランテと呼ばれる店ならドレスコードがあることが多いが、ここはそうじゃない。まあ、トラットリアなのに妙に高級ぶってる店もあるが……。ちなみに、フレンチでいうところのビストロもトラットリアと同じ大衆食堂だ」
「へー、詳しいね」
「この町はイタリアンとフレンチの美味しいお店がたくさんあるからね。接待とかでもよく使うから、色々勉強はしたんだ」
店の外観以上に、内装はとても小洒落ている。
ドアベルには細工が施してあり、テーブルと椅子、カウンターはすべてダークブラウンで統一されていた。
(あのテーブルクロス可愛い……)
テーブルを彩るテーブルクロスは、繊細なレースの縁取りが目を引く。
店内のオレンジがかった照明に合わせて、オフホワイトカラーを選んでいるところも、何気にりこは気に入った。
「気に入ったみたいだね」
奥まった席を選びながら、政宗は微笑んだ。
無言でりこも微笑み、椅子を引いて深く腰掛ける。
メニューを見て、どれも美味しそうだなどと考えているうちに、だんだん食欲が湧いてきた。
「私、バジルサラダとクレソンと生ハムのピザ。あとデザートにカタラーナ」
「じゃあ、僕はカーチョ・エ・ペペとトマトサラダ。デザートはティラミス」
それぞれ注文し、レモン入りのよく冷えた水を飲み干してから、政宗はうわごとのように切り出した。
「りこ、聞いてくれ」
政宗の雰囲気が家の中とはどこか違うことに気づき、りこもまた真剣に頷いた。
「オオカミの件だが……一度、お前とディスカッションしてみたかったんだ。だが、嫌ならかまわない。その、色々あった後だしな」
「いいね、それ。私も、今日あったことを整理させたいから、ディスカッションしてみよう」
どこか気取った物言いは、政宗のもともとの口調だった。
早くからイギリスに留学し、日本の著名な学者達と交遊を深めていた政宗は、意識していない限り、ハーレクイン小説の登場人物のようなしゃべり方をしてしまうのだ。