ホルケウ~暗く甘い秘密~






日曜日、りこは政宗を伴わずに、警察署へと足を運んだ。

狭い田舎町だと、情報の伝達が気持ち悪いほど早い。

一昨日、白川町警察署の前に位置する杉並薬局では、そこに勤める一人の主婦が、りこが警察署に駆け込むのをばっちり目撃していた。

そして、りこが知らぬ間に、その噂は商店街に住む主婦達の間にあっという間に広がった。

おそらく今頃は、りこの住む住宅街の桜ヶ丘や、高校から高速で少し離れたところの住宅街である緑ヶ丘辺りまで、噂が広がっていることであろう。

そういった、田舎独特のプライバシーという言葉を無視した慣習が、りこには一向に理解出来なかった。

昨日の今日で騒がれたくはないため、りこは政宗を伴わず、またちょっとした変装をして警察署を訪れたのであった。


まずはエントランスに入るが、この時点では誰もりこに気づいていない。

変装が成功したことに安心しながら、りこは受付にいる男性に声をかけた。


「すいません、オオカミの件で事情聴取に呼ばれました。春山です」


男性は一瞬怪訝な顔をしたが、りこの名前を聞いて得心し、頷いた。

二階の、前回よりもさらに広い会議室に通され、待つこと数分。
圧倒的な威圧感を振り撒きながら、湯山が一人で入ってきた。

が、その湯山も、りこを見るなり驚きを隠せずにいた。


「…………失礼だが、君は一昨日の子か?」

「はい、訳あってちょっとこんな格好をしているんです」


そう、今日のりこは、外国人風の派手なメイクをして、普段のイメージからはかけ離れた露出の多い服を着ていた。

町民の目が光るこの町で、あたかもよそ者のような風采でここを訪ねたのだ。


「ミランダ・カーを意識してみたんです。一昨日の夜、杉並薬局のおばさんに、ここに駆け込むところを見られたみたいで。噂を流されたくないから、ちょっと変装してこちらに参りました」

「その、ミランダなんちゃらっていうのは知らんが、上手く化けているよ。一昨日の地味で真面目そうな雰囲気が微塵も無い」


私の第一印象はそれか。
苦笑しながら、ミランダ・カーに化けたりこは、湯山の前に椅子を引っ張っていった。

よく見ると、湯山はげっそりとしていた。
くまこそ薄いものの、目はどこか生気がない。

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