ホルケウ~暗く甘い秘密~


「では、飽き飽きしているだろうが、もう一度昨日見たことを話してくれ」

「はい、夕方の6時30分頃、高校からこちらまで繋がっている坂の終わりの川辺で、少年、いえ、有原君が素振りをしていました。素振りの音が止まってすぐに、彼は悲鳴をあげました。私が橋に駆け寄った時には、彼は一匹のオオカミに押し倒されていました。二匹のオオカミは周囲を監視していました」

「ありがとう。供述にぶれは一切なし……っと。あれからオオカミの目撃情報は入ってないし、事情聴取は今日で終わりだ。今日はすまなかった。こちらから出向くはずだったんだがな……」


急に立て込んだ案件を優先するべく、警察署がりこから訪ねてくるように頼んだことを、湯山は申し訳なく思ったのだろう。

あまり治安の良くないこの町だ。
どんな事件があったのか、あえてりこは聞かなかった。


「それでは、失礼します」


軽く会釈して、りこは会議室を出た。
応鷹に頷く湯山を尻目に、りこは小走りでトイレを探した。


(さっきから我慢していたんだもん、ちょっと膀胱が……)


しかし、女子トイレが見つからない。
男子トイレなら、もう2つは見つかったのに。

この警察署は女性に不親切だ、とひとりごちながら、りこは三階にあがった。

すると、向かい側のほうから足音が聞こえてきた。
ちょうどいい、女子トイレの位置を聞こうと目を凝らしたりこだが、こちらに向かって歩いて来る人物を見て、驚きに目を見開いた。

湯山が、誰かを伴ってこちらへ来る。

それも、さりげなく視線をあちこちに向けて、周囲に誰もいないか、確かめながら。

咄嗟に、りこは急騰室に隠れた。


(ってバカ!!隠れたらトイレどころじゃなくなるじゃない!)


状況的に、今さら出るに出られず、結果としてりこは二人の会話を盗み聞きする羽目になった。


「一体どういうことなんだ……供述を拒むだなんて、そんなに酷い目にあったのか?」

「さあ?婦警はとにかく困っています。なにせ、二人とも発見した時から無言なので……」

「強姦された二人の体内から出てきた精液は?犯人特定につながるものは無いのか?」

「なにも見つかっておりません……」

「そうか、八方塞がりだな。これじゃ……」


はっきりと聞こえた二人の言葉に、りこは顔を青くしていた。
指先が冷え、心臓が早鐘を打つ。

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