ホルケウ~暗く甘い秘密~
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(さすがに、買い物行くのにこの格好は……)


帰宅し、化粧を落としたりこは、改めて自分の着ている服を見下ろした。

股下から数えたほうが早いほどの、丈の短いデニムのショートパンツに、体にぴったりと張りついた、レースの縁取りがセクシーな黒のキャミソール。

その上には、白い薄手のシャツを一枚羽織っただけだ。

洗練された、都会的すぎるその服装では、田舎の中でもかなり原始に近い生活をしているこの白川町では、かなり浮く。


地味な濃紺のワンピースに着替え、白いシュシュで髪をまとめてから、昼寝している宗行を起こさずに、りこは買い物に出た。

と同時に、向かいの家のドアも開く。


「あ、りこさん」


嬉しそうに口角や声のトーンが上がった玲に、りこはにやつくのを必死でこらえた。

そして突如、玲の目の色が変わっていることを思い出した。


(あんなに気にかかったのに……実物を見た途端に記憶が薄れるなんて、玲の笑顔の威力は半端ないわ……)


さすが、天使のごとき美貌。


「どっか出かけるの?りこさん」

「買い物。晩ごはんの材料が足りないから」

「あ、奇遇だね。俺も買い物。親父が研修旅行行っちゃって、当分飯が無いから」


スーパーまで一緒に行こう、そう提案し、玲は物置から自転車を引っ張ってきた。

さりげない仕草で、りこの手を自分の腰に誘導し、玲は再会した日のような無茶な運転はせず、淡々とペダルをこいだ。


(ほんと、王子様然としているというか……女の子の扱いがうまいわ。玲って、天然のタラシなのかも)


疑惑の多い幼なじみを見るりこの目は、あからさまに警戒心を出していた。

人の気配や視線に敏感な玲は、りこに顔が見えないのを幸いとしながら苦笑した。


「晩ごはんどうしようかなー」


野菜コーナーを物色しながら、りこは玲の食事がどうなるのか、気になった。


「玲、あんたご飯はどうするの?っていうか食費はいくらもらってるの?いや、そもそも料理出来る?」


心配したらキリのないことだが、りこは呉原家のエンゲル係数を本気で心配していた。

なにせ、あの食欲だ。冷蔵庫にいくら食料があっても足りないであろう。

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