ホルケウ~暗く甘い秘密~
しかし玲は、その彫刻のごとき整った容貌に似合う端整な笑顔で即答した。
「俺料理苦手だから、これから1週間カップラーメンとコンビニ商品かな。大丈夫、一万円あるんだし、腹五分目で我慢すればやってけるから!」
りこは想像した。
カップラーメン、コンビニ商品のみで、腹を空かせながら過ごす1週間を。
「……ご飯くらいなら食べさせてあげるから、そんな不健康な食生活はするんじゃない。だいたい、料理出来ないってどのレベルよ。レシピ通りにならない?食料切るのがへた?」
深いため息をつき、玲のためにもう二、三品、夕食の献立を増やすことにしたりこだが、
「んー、なんも出来ないかな。今朝も、卵割ろうとして失敗した」
握り潰しちゃった☆と茶目っ気全開で可愛い子ぶる玲に、りこはリアクションに困って立ち尽くした。
(どう反応すればいいの……人間、得意不得意はあるものだけど、卵握り潰すって……)
不意に、再会した先週の玲を思い出す。
自転車をあり得ない速度で飛ばし、アスファルトにその痕跡を残していた。
彼は、異常に力強く、その力のコントロールが料理では出来ないのかもしれない。
「1週間、ご飯よろしくお願いします。りこさん。あ、家の冷蔵庫にまだ野菜とかあったよ。調理方法わからなかったから、何個か適当にかじったけど」
「……かじった?」
りこが首を傾げている間に、食材が積み上がりつつあった、重みで唸るそのかごを玲はさりげなく取り上げた。
「水菜とかなすびとか。さすがに味気なかったな、生だと」
「ワイルドすぎるよ……玲」
綺麗な顔からは想像もつかない、野生丸出しの行動に、りこはクスッと笑った。
しかし、玲が自分の目を真っ直ぐ見ていることに気づき、りこの微笑みはすぐに引っ込む。
なにか言いたげな、物憂げで熱い視線に、自然と胸が高鳴る。
顔が紅潮していくのを感じながら、りこは玲をおいて適当なコーナーへ逃げた。
まるで、買い忘れがあるというような態度を取りながら。