ホルケウ~暗く甘い秘密~
時が静止した。
驚きのあまり声が出ないりこは、ただ目の前に佇む美少年を見つめるしかない。
(こんな綺麗な顔、忘れるわけない……誰……?)
1分が経っても、自分を知っているらしいこの美貌の少年が誰かわからない。
彼は少しもがっかりした様子を見せずに、むしろ爽やかな笑顔で自己紹介した。
「俺、玲だよ。呉原玲。その昔、りこさんの隣に住んでいた。同じマンションに住んでいたじゃん」
あっ、と声を漏らした時には、りこはすべて思い出していた。
りこがまだ小学校に入学したばかりの頃、隣に九州から引っ越してきた一家がいた。
呉原家の長男、玲はりこと2つしか違わなかったため、良い遊び相手だったのだ。
その当時、服を着ていたらまったく男の子に見えない玲は同級生によくからかわれており、りこが玲をかばっていた。
玲が小学校に入学する頃には、りこはもう思春期だったため、あまり遊ばなくなっていたが、それでもマンションのエントランスなんかで鉢合わせすれば、よく話したものだ。
りこが東京に引っ越した後は、互いの消息は一切不明だった。
それが…………。
「すごい偶然。今度はお向かいさんか」
マンションを出た呉原家の新居が、目の前にある。