ホルケウ~暗く甘い秘密~
戻るか、いっそ警察を呼ぶか、あれこれ考えるうちに、一人ナイフを持った不良がいたことを思い出す。
いくら玲でも、斬りつけられたりしたら、ひとたまりもない。
しばし迷った末、りこは様子を見に戻ることにした。
いざという時は、通報すればいい。
スーパーからは死角になっている、隣の倉庫に自転車を停め、そこからりこは、気配を消して玲達に近づいていった。
日曜日の昼下がりだというのに、ここのスーパーはあまり人気がない。
駐車場の一角に座り込む不良達を見つけ、りこは息を呑んだ。
仁王立ちになり、不良達を見下ろす玲が淡々と告げた。
「俺を殺したいなら、もっと殺傷能力の高い武器のほうがいいよ。まあ、その手じゃ当分はなんも出来ないだろうけど」
「ば、化け物ッ、ありえねえ……」
日の光が当たり、何かが反射して、玲の足元を明るく照らした。
その光の元を見て、りこは絶句した。
(ナイフが、折れてる!?)
先ほどまで恐怖をもたらしていたジャックナイフは、まるで銀紙の屑かなにかのように、三つに砕けて、地面に落ちている。
玲は見事彼らを倒したようだが、なぜかりこは嫌な予感がした。
「学校でも外でも、二度と俺に話しかけるな。それから、今日一緒にいた女の子に手を出したら……五体満足じゃいられなくなるよ」
冷たくそう吐き捨てた玲に、先ほどナイフを持っていた少年が、右手をかばいながら血走った目で叫んだ。
「うるせえ強姦魔!!愛子を襲っといてなに言ってやがる!」
りこが耳を疑うと同時に、玲は血の気のひいた顔で少年を見つめた。
「俺達の大事なアイドルだった愛子を、あんな目にあわせておいて、なに楽しそうに次の女捕まえてんだ!?ふざけんな、ヤリチンが!」
喚く少年とは対照的に、玲は静かだった。
静かに少年に歩み寄り、そして目にも止まらぬ早さで、その顔に回し蹴りを叩きこんだ。
「二度と話しかけるな」
それだけ再び言うと、玲は踵を返した。
こちらに来る玲と鉢合わせないよう、りこは急ぎ足でその場を離れた。