ホルケウ~暗く甘い秘密~
2
(玲が女の子に乱暴するなんて……なにかの間違いとか、事故だ。多分そうだ)
帰り道、りこは強くそう思った。
だがしかし、右手を負傷してもなお、必死で愛子という少女を想って声を振り絞ったあの不良が、玲を貶めるために嘘をついているとも思えない。
結果的にりこは、自分の記憶に蓋をすることにした。
どうせ真相はわからないのだ。
あれこれ考えたって仕方がない。
自宅に着くまで玲とは会わなかったが、りこは気にせず、帰宅するなり食事の支度を始めた。
まだまだ残暑が厳しいからか、どうしても献立がさっぱりしたものになってしまう。
しかしそれでは、育ち盛りの玲の胃袋が満足しないだろう。
昼寝から起きて、ボーッとゴルフの中継を見ていた政宗に、りこはキッチンから顔を覗かせて尋ねた。
「じいちゃん、晩ごはんは和食と中華、どっちがいい?」
「和食。今日は和食の気分だ」
いつもどうり、迷うことなく即決した政宗の指示に従い、調理を始める。
大根の皮を剥く傍らで、りこは明日の図書連盟の会合に思いを馳せた。
手は休めずに、明日の推薦図書はどれにしようか、頭の中でいくつか候補を考える。
そしてなにを推薦するか決めた時には、出来上がった料理を皿によそっていた。
玲の分にラップをかけ、りこは政宗に簡単に事情を説明し、サンダルをつっかけて外に出た。
呉原家のインターホンを鳴らすと、少しして扉が開いた。
「ご飯持ってきたわよ」
お盆をつき出すと、玲はどこか遠い目で礼を言った。
しかし、受け取ろうとはせず、そのままりこを家の中に誘った。
りこのほうも、様子がおかしい玲が気がかりで、何の警戒もせずに、家に上がった。
「ありがとう。食卓の上において……。後で食べる」
リビングのソファーに沈みこみながら、玲は長い睫毛を伏せた。
そうすると、その物憂げな表情は中学生とは思えない色香を振り撒くのだが、本人はまったく自覚していなかった。
不謹慎にも、また暴れだした鼓動を無視して、りこは玲の隣に座った。
ソファーが、その重みに軋む。
「りこさんはさ」
切り出した玲の声は、震えていた。
「俺が女の子をレイプするようなやつだって、思う?」
呼吸が止まる。まさか、という顔でりこは、玲を凝視した。
そのまさかは、当たってしまった。
「見てたよね、さっき」