ホルケウ~暗く甘い秘密~
気づかれていた。
どうやって、とは聞かない。
玲の、超人的な身体能力は、りこの気配を敏感に感じ取っていたのだ。
そう自分を納得させ、りこは短く言った。
「ごめんね。気になったから、つい」
「そっか」
「レイプ云々の話し、私にはわからない。どういう事情でそういう話しが出ているのか。でもこの手の話しって、当事者以外は真相を知らないってことがよくあるでしょ?だから、私はあの子達が言っていたことは信じない」
あくまで私情は交えず理路整然とそう言い切ったりこに、玲の彫刻のように整った顔から、一切の表情が消えた。
しばらくしてから、玲はゆっくりと薄い唇を開いた。
「あのさ……あいつらの言ってたこと、ほとんど本当って言ったらどうする?」
うっすらと自嘲的な笑みを浮かべ、玲は低い声で言った。
「愛子のことはよく覚えてないや。セックスしろってうるさかったから、してやった。あまり気を使わないで好き勝手やったら、いつの間にかレイプしたことになってたんだよね。まあ別れたいなって思ってたし、ちょうど良かったからあえてそのまま噂を放置していたんだけど」
どう?軽蔑した?
そう尋ねる玲の瞳は真冬の空気のように鋭く、冷たい。
りこは言葉に詰まり、ただ玲を見つめることしか出来なかった。
露骨な物言いも、棘のある声も、冷たい眼差しも、何もかもがりこの知る呉原玲からかけ離れたものだ。
思わず後ずさったその時、りこは玲の瞳には何も映っていないことに気付いた。
ガラス玉のように完璧な美しさを誇る双眸はどこまでも空虚で、考えるより先にりこの口からは言葉が飛び出ていた。
「どこまでが本当なの?」
大きく目を見開く玲に、りこは嘘を確信する。
なぜかはわからないが、彼は嘘をついている。
「ふーん。信じないんだ」
「全部が本当だとは思えない」
次はしっかり考えたうえで、あえて濁すような答えを出す。
しかし玲の立て直しは早かった。
まったく動揺した様子を見せず、むしろほの暗い微笑みすら浮かべ、甘く囁く。
「確かめてみる?」
小さく、しかしはっきりと聞こえたその言葉を咀嚼し飲み込む間もなく、りこの背中に玲の右腕が回っていた。
肩ごと引き寄せられ、それをりこが意識した時には、二人の唇は重なっていた。
無防備だったりこの唇に、あっという間に玲の舌が侵入する。
舌に吸い付き、時折チロチロと歯列をなぞっては、音をたてて唾液を流し込むそのキスは、あまりに一方的で、淫靡だった。
酸欠で空気を求め、さらに口を開いたりこがおもわず漏らした吐息は、情事の最中のため息にも似たせつなげなもので、それがさらに玲の欲望を煽る。