ホルケウ~暗く甘い秘密~


「や、ダメ……」


弱々しく首を振るりこだが、まったく力が入っておらず、説得力がない。

口の中に残っている、甘くトロリとした玲の唾液が、本来なら強靭であるりこの理性を破壊しているのである。


「ダメなら抵抗してよ、りこさん」


自分からキスを仕掛けておいて、玲は顔を歪めて泣きそうになっていた。

しかし飛び出る声は甘く掠れ、明らかにりこを欲している。

そのアンバランスさから、玲の気持ちは一切汲み取れず、ますますりこは混乱した。


「…………ごめん」


小さく謝る玲は、まるでそうしなきゃいけないというような雰囲気を滲ませていた。

一瞬にして、先ほどまでの甘い酔いは醒めた。

りこは思いっきり玲の胸を押し退けた。
なんだかわからないが、心の底から玲に対してイラついているのだ。

それに対し玲は、まるで抵抗されたこと自体が意外というような顔で、目を丸くしている。

それがまた、りこの苛立ちを増幅させた。


「見損なったわ。最低」


真っ直ぐ玲の瞳を見つめ、りこは冷たく吐き捨てた。

そして立ち上がり、後ずさりながら、りこは怒りにまかせて低く唸った。


「噂は本当みたいね。もう十分わかったわ」


玲は何も答えなかった。

ただ少しだけ気まずそうに、りこから視線を背けるだけである。

その態度にますます苛立ったりこは、泣きそうなのをこらえて、短く言った。


「もう私と関わらないで」


呉原家を出るまで、りこは必死で涙をこらえていた。

帰宅し、真っ直ぐ浴室に行き、乱暴に服を脱ぎ、そしてシャワーを一番強く出してから、それからやっと涙を流した。


(終わった……始まる前に、私の恋は終わったんだ……)


きつく痛む胸に呼吸が苦しくなる。
楽になる方法が知りたいが、そんなものは無いのだと女の本能が知っていた。

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