ホルケウ~暗く甘い秘密~
翌朝、りこは入念にメイクをして登校した。
図書連盟の会合に気合いを入れているのではなく、昨夜泣きすぎて、顔が大変ブスになっていたためだ。
朝のホームルームが終わり次第、りこは山崎と教室を出た。
会合は丸一日あるため、今日はクラスメートと顔を合わせずに済む。
落ち込んでいる時に、居場所の無いクラスにいる気力などなく、今日の会合が終わったら、数日間学校をサボろうか、りこは真剣に考えていた。
「え……ちょっと待て嘘だろ!?」
玄関を出てすぐに、山崎は誰かに電話していたが、なにか焦っているのか、見るからに動揺していた。
「こんな季節にインフルエンザって……どんだけ運悪いんだ!は?長渕も感染?うわ、マジかよ……わかった。お大事にな」
はあー、と長いため息をつく山崎の袖を引っ張り、りこは説明を求めた。
「先生の声が大きいので話の内容は筒抜けでしたが、一応説明をお願いします」
「委員長と書記がインフルエンザにかかった。3年の間で少し感染者がいるとは聞いたが……何もこのタイミングでかからなくても……ま、そんなわけで今日は二人きりで遠出だな」
しれっとそう言う山崎に、りこもまたあっさりと頷いた。
「そうですか……副委員長とは名ばかりの、新米の私だけってかなり不安ですけど、まあ仕方ないですよね。それにしても、ずいぶん季節外れですね」
「そうだな。さて、そろそろ行くか」
黒い軽自動車の助手席を開け、山崎は優雅にりこをエスコートした。
どうやら、これは山崎の車のようだ。
「二時間の道中、暇をもて余すなんてやだろ?学校じゃゆっくり話す時間が無いから、今日は思う存分語ろう。お前の好きな作家見る限り、結構俺と趣味が近いと思うんだけど」
「そうなんですか?」
「例えば、田中芳樹。お前の年齢で銀河英雄伝説を読んでいるやつは、初めて見たぞ。お前、どっち派?ラインハルトとヤン」
「断然ヤン提督です。現実にいたら、まず猛アタックしてますね」
「えー、俺はラインハルト派」
気がつけば、りこは笑っていた。
今朝の重苦しい気持ちを一時でも忘れて、山崎と好きな作家について、夢中で話していた。
その空間が心地よいことに気づいた時、唐突に切なさが込み上げてきた。
本当は、この空気を共有したいのは山崎じゃなく……。