ホルケウ~暗く甘い秘密~
りこの変化に気づいたのか、山崎は国道に出る前に、コンビニに寄った。
しばらくして戻ってきた彼は、袋からよく冷えたペットボトルを出し、りこに手渡した。
「差し入れ。今日1日働いてもらうから、前駄賃だ」
「ありがとうございます」
それは、りこの好きなメーカーのミネラルウォーターだった。
以前ミネラルウォーターについて、どこが一番美味しいか山崎と議論したことがあるが、その時にりこが押していたメーカーのものだ。
(あのときの会話、覚えていてくれたんだ…………)
意外とマメなところを発見し、純粋にその心遣いの嬉しさに浸る。
そして、山崎の優しさにほだされ、教師を相手によからぬ想像が働いてしまう。
(こんなふうに優しい人を好きになれたら、あんなことにはならなかったのかな……)
何も映そうとせず、全てを否定するライトブラウンの瞳が、頭の中でちらついて離れない。
そういえば、玲の瞳の謎を知りたいと思っていた、などと玲に関する記憶は、思い出せばキリがなくて、それにりこはまた虚しくなった。
一緒にいた時間は1週間程度なのに、いつの間にこんなに心を奪われていたのか。
涙腺が緩みそうになるのを必死でこらえ、りこは窓の外の景色に目を移した。
町からはだいぶ離れ、牧歌的でのどかな、果てしない緑の草原がどこまでも続いている。
東京では決して見ることの無い、どこまでも続く緑の地平線に、不思議な感動や畏敬の念を抱きながら、りこはポツリと呟いた。
「なにも考えないで、あの草原をずっと転がってたい」
「俺もそれ、よく考える。嫌なこととか、うんざりすることがあった時、全部忘れて頭の中空っぽにしたいから、そんなこと考えるんだよな、きっと」
会話に参加している意識は無いのか、山崎の口調もまたどこか虚ろだった。
それに気づいて、今日初めて、りこは山崎を正面から見つめた。
相変わらず整った顔立ちで、洗練された服装で、モデルのような華やかさがある。
しかしその目は、疲労を隠せないでいた。