ホルケウ~暗く甘い秘密~
「お疲れのご様子ですね、先生」
気遣わしげなりこの声音に、山崎は一瞬りこをみやり、苦笑した。
「ここ最近は立て込んでいてな。忙しいんだ」
そうですか、と言葉を切り、りこの思考はようやく玲から離れることが出来た。
忙しいと言えば、オオカミ事件(正式な名称ではないが、りこはそう名づけた)で世話になった、湯山警部補はどうしているだろう。
2つの強姦事件もあるし、白川町の警察署は今、多忙を極めているだろう。
「春山になら言っても外には漏れないだろう……この学校に友達いないし」
最後の失礼な一言はスルーし、りこは淡々と尋ねた。
「なにかおっしゃりたいことでも?」
「実は、うちのクラスから、刑事事件の被害者が二人出ている」
どことなく品の無さを漂わせるクラスの雰囲気を思い出し、りこは納得こそすれ、驚きはしなかった。
それは確かに、忙しくもなるだろう。
「金曜日、久留米が何者かに強姦された」
「!?」
驚愕のあまり、りこは目を大きく見開き、口もとを抑えた。
しかし山崎は気づかずに、言葉を続けた。
「一昨日は鹿野が被害に遭った。二人とも、当分は学校に来ない」
りこの脳内では、点と点がつながり、一本の線が引かれた。
怒涛のごとく、新たな事実が加わっていく。
(日曜日に、湯山警部補が言っていた強姦事件の被害者は二人だった……。でも供述を拒む理
由ってなに?まさか……)
「二人は、供述を拒んでいるらしい。この短期間で連続的に起こったのを見ると、犯人は同じである可能性があるが、情報が無いと探しようがないだろう?」
「そうですね」
「久留米も鹿野も、相当酷い目に遭ったのか口を開こうとしない。だがつい今、犯人は同一人物の可能性を言ったが、それを一旦忘れると、違う可能性も出てきた」
「友人や恋人が犯人の可能性ですか?」
「…………そうだ」
重苦しく頷く山崎だが、先ほどよりは目に力が戻ってきている。
りこの物思いに耽る顔をのぞきこみ、多少意外そうな声でこう言った。
「なんだ、心当たりがあるのか」