ホルケウ~暗く甘い秘密~
「ええまあ……なくもないというか」
言葉を濁すりこに、山崎は物欲しげな視線を投げつけた。
蠱惑的な眼差しは、玲のそれとは違い、まるで何年も寝かせたワインのような、成熟した甘さに満ちている。
「焦らすなよ。教えて」
「運転中によそ見しないでください。話しますから」
山崎の色気に当てられたりこは、つい刺々しい口調で緊張を隠したが、それによって口にするのが憚られることを言う事態となった。
「鹿野さんについては、誰か恋人のような人がいるみたいだったので……それで、なんとなく予想がついた、というか」
話していくうちに、図書室での情事の音や、鹿野のあえぎ声が、記憶に蘇って来る。
あまりに鮮明に思い出してしまったため、りこは顔を赤く染めて俯いた。
「その顔色を見ると、お前もあの二人がやらかしている現場に出くわしたってわけか。俺もいっぺん鉢合わせしたことあるけど、気まずいよなー……」
これまた、とても担任持ちの教師とは思えない軽いノリで、山崎は茶化して笑った。
「笑っている場合ですか!現場に出くわした時は当然、注意しましたよね?」
「当たり前だろ。いくら俺でも、そこまで職務怠慢じゃねーって。結構こっぴどく怒ったから、鹿野も石田もあれから教室ではしなくなったな。そもそも学校でするなって話なんだけど」
「鹿野さんの彼氏、石田くんだったんだ」
(どっちかというと、鹿野さんは森下くんのほうが気に入ってるっぽかったのに)
意外に思うりこだったが、山崎はりこの思考をぶった斬る衝撃的な発言をした。
「彼氏じゃねーよ、セフレ」
「…………はい?」
顔色一つ変えずに、なにかとんでもないことをサラリと言った気がするが、気のせいなのか。
目を点にして山崎を凝視するりこだが、山崎はこともなげに再び言った。
「だから、セフレ。あいつらは体だけの関係」
一介の教師がこのような猥褻なことを口にして良いものだろうか。
否、いいはずがない。
やはりこの土地の倫理観は、理解出来ない。
頭を抱えるりこに、山崎はさらに補足までつけてきた。