ホルケウ~暗く甘い秘密~
夕方4時、釧路の生涯学習センターの入口で、りこは満面の笑みで山崎に話しかけた。
「すごく楽しかったです!他校の図書委員の推薦文や、プレゼン、とても刺激になりました!おまけに、休憩の時に行った隣の美術館ではモネの絵画の展覧会があったし」
白川高校に転校してきて以来、初めてりこは興奮し、喜びに顔を輝かせていた。
思いっきりはしゃぐりこを見て、山崎も目を細めて微笑んだ。
「他校の生徒に話しかけられてただろ。盛り上がってたな」
「あ、はい。今回私が紹介した作家が好きな子がいて、話しかけてくれたんです。あまりにも話が会うから、さっきLINEのID交換しちゃいました」
よっぽど楽しかったのか、名残惜しげに生涯学習センターを見上げるりこの頭を撫で、山崎は車を入口まで移動させに行った。
そして車が来た時、楽しかった時間に終止符を打ち、りこはこみ上げる切なさを振り払った。
(明日からは、またいつもの生活か……)
「ちょっと寄り道してく」
上機嫌でそう告げる山崎に、りこは何も考えずに了承した。
標津方面へ走る国道から外れ、ポツリポツリと民家が並ぶ中の、焦げ茶色のレンガ作りの店の前に、山崎は車を停めた。
「帰る前にお茶していこう」
予想外の展開に驚くりこだが、山崎はスタスタと店に入ってしまった。
慌ててりこも追いかけるが、すでに店内にいた山崎は、従業員らしき人と親しげに言葉を交わしている。
「マスター、二階借りていい?」
「もちろん。すぐにメニューを持っていくよ」
どうやら山崎は、ここの店主と親しい間柄のようだ。
りこは山崎に手招きされるまま、二階に登っていった。
「わあ…………」
内装の美しさに、思わずりこは声がこぼれた。
鮮やかな深紅のカーペットが、視線を惹き付けて離さない。
柔らかな光を届ける金のシャンデリアはとても美麗で、なんと電球ではなく、ろうそくが火を灯し、室内を照らしている。
ロココ調の造りの白いテーブルには、それに見あった金糸で刺繍が施されたテーブルクロス。
まるで絵本の世界のような贅沢な空間に、りこはうっとりとした。
「リッチすぎる……。もうここで暮らしたい」
政宗に連れていってもらったトラットリアも良かったが、ここは格別だ。