ホルケウ~暗く甘い秘密~
「よく見ていなさい」
そう言うなり、スミス神父は弛緩しきった玲の左腕に触れた。
すると、傷口が突然白く光り輝き始めた。
スミス神父の手が上昇していくにつれ、真っ白な輝きも消えていく。
そして、光が消えた箇所から、どんどん筋肉が再生されていった。
玲の腕はあっという間に、戦闘で損傷する前の形に戻った。
「筋肉と神経は再生出来ましたが、血液だけはどうしても無理です。おびただしい量の出血をしていたようだから、当分は安静にしておくよう、伝えてください」
「再生って……なに言ってるんだか、さっぱり……」
心の中で言ったはずの言葉が、気づけば外に出ている。
りこは今見たものの現象について、どう自分に説明すれば良いかわからなかった。
戸惑いを隠せないりこに、スミス神父は一呼吸置いてから話しはじめた。
「私は生まれつき、傷を癒す力を持っているのです……。病気をなくすことは出来ませんが、外傷ならどんなものでも消すことが出来ます。私と玲は、それなりに付き合いがあり、彼は、私の力を知る数少ない人間の一人です。だから彼は、私をここに呼んだのです」
それはいわゆる、超能力ではないか。
りこは、スミス神父の手を見つめた。
(信じられない……でも確かに、この人は玲の傷をあっという間に治した……)
なんの跡もなく、綺麗に再生された玲の腕こそが、スミス神父の力を証明している。
超能力など、オカルトの類いは一切信じていないりこだったが、今目の前で確かに玲の傷は治ったのだ。
「私の力については、他言しないようお願いします」
困ったように笑うスミス神父に、りこはまだ硬さの取れない声で返した。
「言ったところで誰も信じないと思います……でも、言いふらしたりとかはしません。安心してください」
「ありがとうございます。ところで、玲のもう一つの顔について、あなたはご存知ですか?」
急に、スミス神父の目が鋭く光った。
先ほどの、人からオオカミに変身した玲を思い出す。
「いえ……なにも……」
(私はなにも知らない。好きだと認識した人のことを、なに一つ知らない)
心臓が圧迫されたかのような息苦しさに襲われ、りこは目を伏せた。
ただひたすら、気まずいと思いながら、スミス神父との間に流れる沈黙に耐える。