ホルケウ~暗く甘い秘密~
「玲に直接聞くべきでしょう……。彼もまた、隠していて辛かったに違いない。目を覚ましたら、鉄分が大量に含まれているものを摂取させてください。それでは、私はこれで」
立ち上がるスミス神父に、りこは座ったまま頭を下げた。
「ありがとうございました。玲を助けてくださって……。感謝します」
振り返りざまに、スミス神父は柔和な微笑みを投げ掛けた。
「あなたにも神の祝福があらんことを」
パタン、とドアが閉じられる。
こんなときでも神様出てくるのか、やっぱり欧米の人って日本人とは感覚違うな、など、とりとめのないことを考えながら、りこは玲の頭を撫でた。
さすがに今夜は、一人にしておけない。
スカートのポケットからスマホを出し、電話帳の家族のところに載ってある、唯一の番号を押した。
『もしもし、どうした?』
家の前に車が無いことは確認したため、運転中を想定し、ダメ元で電話をかけたのだが、つながってしまった。
堂々と嘘をつくことに、内心深いため息をつきながら、りこは言った。
「じいちゃん、私今日は玲の家に泊まるね。玲、肺炎こじらせたみたいで、吐血が酷いの。家の前で血を吐いてたから、病院連れていったんだけど、熱も高くて……。おじさんは札幌に研修行ってるから、誰か看病しなきゃ」
玄関前までポツポツと落ちている血痕について、りこはこの嘘が一番自然だと考えた。
玲が幼なじみということもあり、政宗は二つ返事で了承した。
『わかった、そばにいてあげなさい。あと20分ほどで着くけど、何か買ってくるものはあるかい?』
「無いよ。大丈夫。明日の朝には帰るから」
電話を切り、死んだように昏睡している玲の頭を再び撫でて、りこは冷蔵庫の食材を拝借し、キッチンに立った。
プルーンとヨーグルトのスムージーくらいなら、弱った玲でも口にすることが出来るかもしれない。
プルーンの皮を剥きながら、りこは深い思考の海に入る。
(さっきの玲の叫び……もしかしたら、誰かに自分の正体をばらしたことがあったのかも。それで拒絶されたかなんかで、トラウマになってるのかな?いや、考えても仕方ないか。起きた時に、彼が言いたかったら言えばいいだけだし……今私が出来ることは、血の気を増やす飲み物なり料理を作ることだけだ)