ホルケウ~暗く甘い秘密~
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「担任の山崎だ。これから1年半よろしくな」


青のフレームが似合うメガネのその先生は、爽やかな甘みのある笑顔をりこに向けた。


背はそこまで高くないが、整った顔立ちと人懐こい雰囲気がさぞかし女子受けしていることだろう。


(あんま関わりたくないなー……)


この手の人間には、必ずと言っていいほど熱狂的なファンクラブがつきものだ。

色恋沙汰のゴタゴタに巻き込まれたくないりことしては、例えどれだけ性格が良かろうと、山崎はその顔からして警戒対象である。


「こちらこそ、何卒よろしくお願いいたします」


生真面目な表情を崩さず、年に似合わないかしこまった挨拶をすれば、山崎は眉を下げて苦笑した。

職員室から教室まで案内されている間の会話は、これまた至って堅苦しいものである。


「春山は、進路、ちゃんと考えているか?」

「神奈川県の聖ルチア女学院大学が第一志望です」

「こりゃまた、かなりの難関大だな。まあ、編入試験の解答を見れば納得できるけど。ここだけの話し、英訳の解答はALTの先生方も舌を巻いていたぞ」

「ありがとうございます。あれは偶然ですよ。たまたま、数日前に見たテレビの英会話のフレーズを、ほんの少しアレンジしただけで」

「そう謙遜するな。聖ルチアで、何を専攻したいんだ?」

「考古学を。もしくは、人類学を」

「ってことは、目指す職業はいわゆる学者ってやつ?」

「はい」

「周りに目指してた奴いないから詳しくは知らないけど、なんかかっこいいな」


屈託なく笑う山崎は、どこまでも愛想が良かった。

それも、表面だけ取り繕う人間独特の薄っぺらい作り笑いなどではなく、本当に楽しそうに笑うのである。

どうやら山崎は、かなり人懐っこい性格らしい。


「着いたぞ。ここが春山が1年半使う教室だ」


三階の真ん中の教室。
ドア前には、2年C組のプレートが掲げられている。



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