ホルケウ~暗く甘い秘密~


積極的に舌を絡め、唾液を混ぜあえば、その異常なまでの甘さに頭がぐらついた。

胸焼けを起こしそうなくらい、玲の舌は甘ったるく、りこはつい眉をひそめた。


(気持ち悪い……水が欲しい……)


はっきりと気持ち悪さを自覚した途端、先ほどまでの欲望の炎は鎮火されていく

ダメもとで玲の胸板を押し退けると、意外にも彼もあっさり体を起こした。


「やっぱり……。効いてない」


戸惑うようなその声に、りこは首をかしげながら、脱がされた衣服をさりげなく整えた。


「りこさんには、アンパルが効いてない」

「アンパルってなに?」

「人狼の犬歯から抽出される分泌液。ヒトに対して媚薬のような働きをする。ただの生殖行動において必要のないキスをするのは、獲物の口内にアンパルを流し込んで、抵抗力を奪うためなんだ。そして体内に入り込んだ瞬間に、アンパルは猛毒に変わる」

「へー……」


蜂の持つ神経毒のようなものと理解していいだろう。

しかし、玲の発言からすると……。


「そのアンパルが、私には効かないと?」

「うん。前にりこさんを襲った時もそうだった……。通常ならとっくに効いていて、理性なんか残っていないはずなのに、おかしいなって」


それどころか、とさらに玲は続ける。


「以前よりも、さらに効かなくなっている。おまけに、俺の理性まで戻った。一体どうなってるんだ……」


(いや、どうなってるんだと言われても)


何はともあれ、今回も未遂で済んで良かったと、りこは胸を撫で下ろした。

そして襲われる前からの気になっていたことを、静かに聞いた。


「玲……私が引っ越す前は人狼じゃなかったよね?まだ光彩が黒かったし。いつ、どうやってあんたは人狼になったの?」


その質問を予想していたのか、とうとう来たかといったような顔で玲は即答した。


「りこさんが引っ越して、2週間後くらい。夏祭りの夜に、この辺に住む人狼の中でも特に狂暴なボロディン族の長に噛まれて、俺は人狼になった。詳しいことは、今はまだ言いたくない……ごめん」

「わかった。なんか、私こそごめん……」


もともと、この一回で何もかも洗いざらいしゃべってくれるなど、思ってなかったのだ。

簡潔なものでも、答えが返ってきただけましだ。

気を取り直し、りこはいつも通りの声を意識しながら、話題を変えた


「冷蔵庫から食材を頂いたわ。スムージー作ったんだけど、飲む?」

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