ホルケウ~暗く甘い秘密~
いつもと雰囲気の違う山崎が、あっという間にりことの距離を詰めた。


「相変わらず来るの早いな。まだ鍵開いてねーぞ?」


今日は明るいベージュのチノパンに、生地の厚い白いシャツといった、いかにも先生といった格好である。

しかし、1つ大きく違うのは……。


「先生、ワックスで髪いじったら、大学生にしか見えません。幼い」


いつもはストレートの髪を、ワックスで丁寧にスタイリングしている。


「幼いってなんだ失敬な!これでも、今年で25になるんだぞ?」

「あ、思っていたより若かった。てっきり27くらいかと……」

「なあ、泣いていいか?一応年相応の顔のつもりだったんだけど」


憮然とする山崎をなだめながら、二人で図書室に入る。

山崎が鍵を持っていたのだから当然だが、二人の他にはまだ誰もいない。


「今日はデートですか?珍しく香水なんかつけちゃってるし」


からかうりこの目を、山崎はじっと見つめた。

その視線の熱さに、デジャヴを感じる。


(なんだろう……前にもこんなことがあったような気が……)


思い出せず、山崎をそっちのけで記憶を漁っているりこは、彼が軽くため息をついていることに気づかなかった。


「まあ、いっか。先生、私来週辺りに聖ルチアの講習会行くので、今日にでも公欠届けください。じいちゃんの判子もらうには、今日しか時間がないので」

「おう」

「先生、なにニヤニヤしているんですか?気持ち悪い……」

「教えてやろう。お前だいぶ素が出てきたよ。前はもっと距離があったのに、今じゃ毒まで吐いて、からかってくる」


嬉しそうに笑う山崎に、りこは目を丸くし、そしてばつの悪そうな顔をした。

いつからそんな砕けた口調になっていたのか、まったく自覚が無かったのだ。


「申し訳ございません。調子に乗っていました」


苦笑するりこに、山崎は眉をひそめた。


「なんで謝るんだよ。仲良くなったってことだろ?今さら堅苦しい態度なんかとるな」

「そういうものなんですか?」

「そういうものだ。先生だから仲良く出来ないなんてのは受け付けないからな」


わかりました、と納得した様子を見せたりこに
見えないよう、密かに山崎は胸を撫で下ろした。
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