ホルケウ~暗く甘い秘密~
山崎が木造の引き戸を引くと、中の様子がちらりと見えた。
窓際に座る生徒達は、一様にこちらに視線を投げた。
気だるげな雰囲気も相まって、思わずりこは体を引いてしまった。が、教室に入らないわけにもいかない。
山崎の後に続き、教室に入ったりこは、意識して背筋を伸ばし、目線を高くあげた。
「みんな、昨日俺が言った転校生の春山だ。春山、自己紹介して」
「はい。東京から来ました。春山りこです。これから1年半よろしくお願いします」
軽く一礼し、山崎のエスコートで自分の席まで行けば、女子達の視線が背中に突き刺さる。
やはり、山崎は危険だ。
(これからは最低限の用事以外で話しかけないようにしよう。そうしよう)
そしてなんだろう。
先ほどから感じる、この違和感は。
普通、転校生ってもうちょっと話しかけられたりとかするものなのではないだろうか。
話しかけられるどころか、敬遠されている気がするが、気のせいなのか。
「春山、俺森下右京。よろしく」
唐突に耳に入った声に驚き、体ごと振り向けば、隣の席の彼、森下はにこにこと笑っていた。
「あ、はあ。よろしく」
いきなりのことにかなり気の抜けた返事だが、そんなことはおかまいなしに、森下はりこの右手を掴み、ぶんぶん振り回した。
「いやー、こんな美人が入ってくるなんて!うちのクラス、他よりも女子の数少ないからなんか華がなくてさー。大歓迎!」
この人の審美眼はどうかしている。
激しい握手に翻弄されながらも、りこはそれだけは確信した。
りこは美人ではない。顔立ちはまあまあ整っているが、人目を引く華やかさとは無縁だ。
スタイルは良い方だが、それも特別素晴らしいというほどのものでもない。
いわゆる、中の上。全体的にほどほどというレベルである。
普通を絵に描いたようなりこにそこまで言うとは、森下はよっぽどリップサービス精神が旺盛なのだろう。